凝りやすい、疲れやすい猫背座りはボールやクッションを置いて改善
日経ヘルス編集長 藤井省吾の「健康時評」
夏の休暇を終え、オフィスに復帰したとたんに肩が凝る、疲れると感じている人はいないだろうか?
オフィスワークのときの椅子への座り姿勢が悪いために、肩こりや首の凝りなどで体調が悪くなったり、足がむくんだり、さらには太りやすくなる人がいる。実は、こんな不調の多くは、骨盤を後傾させる座り方に原因があるとわかってきた。
まずは、下の写真の「いい座り方」と「悪い座り方」のどちらに近いかを、確認してほしい。これは、整形外科医でスポーツドクターの中村格子医師がまとめたもの。
右がいい座り方だ。このとき、骨盤は"立つ"状態で、首、肩、背筋のラインが縦に1直線になる。ところが、左の悪い座り方のときには、骨盤は"後傾"といって後ろに傾いた状態になる。椅子には背もたれがあるので、後傾状態でも背中は背もたれで支えられる。一見すると、楽そうだが、お腹はつぶれ、お尻は圧迫され、肩に対して首と頭が前側に突き出た格好になる。「骨盤が後傾した座り方は、楽なようで、実は楽でなく、肩や首が凝りやすい姿勢」だと中村医師は説明する。
しかも、太りやすい座り方でもある。日経ヘルス編集部では、代謝を測定する装置で「いい座り方」と「悪い座り方」のときそれぞれで安静時代謝を測定したことがある。すると、前者では1日当たりに直して1800kcal/日、後者は1390kcal/日だった。代謝に差が出た理由は姿勢を維持する抗重力筋の働きの有無にある。いい座り方の時には、腹筋や脊柱起立筋などの抗重力筋が体を縦に支えるが、悪い姿勢のときには、これらの筋肉群はほとんど働かなくなってしまう。
女性の猫背座りは椅子が合っていないのが一因、ボールなどで骨盤を支えると改善
この悪い座り方は、猫背の一種であると考えられている。特に、女性では、立っているときは猫背ではなくても、座っているときにこの"猫背座り"が現れる人が多い。その理由の一つとして、椅子を研究する人々が挙げるのが、多くの女性が体格に合わない椅子に座っていること。
本来、オフィス用の椅子は、背もたれの下部が骨盤の上部を支えて「いい座り方」を促すように設計されているが、ここに大きく関わるのが座面の奥行き。男性にはぴったりの椅子でも、女性には奥行きが長すぎることがあり、そのために背もたれの下部が骨盤に当たらないことも。すると、自然と背中の上側を背もたれにもたれさせる"猫背座り"になってしまう。
では、肩こりや太るもととまでされるこの"猫背座り"の対策は? 今、注目されているのがオフィスで椅子の背もたれと骨盤の間に、柔らかいボールやクッションをはさむ方法(右の写真)。ボールやクッションが骨盤の後ろ側を支えることで、骨盤は"後傾"状態から、"立つ"状態に変わり、自然と「いい座り方」を維持できる。
同じ働きを狙った専用のクッションや、スタンド状のグッズなどもあるが、ボールやクッションでも効果は上々で、今、オフィスの女性の間では密かな流行となっている。
夏休み空けのオフィスで、「疲れやすい」と感じた人で、猫背座りを自覚しているならば、ボールやクッションを椅子の背と骨盤の間に挟む改善法をぜひ試してみてほしい。
日経ヘルス編集長。東京大学大学院(農学系)を修了。1991年に医師向けの専門雑誌『日経メディカル』の記者として取材をスタート、98年からの『日経ヘルス』記者生活でも、医学と科学をベースに取材・編集を担当。08年から現職。
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。