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民間人校長不要論と向き合う

~ママ世代公募校長奮闘記(10) 山口照美

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NIKKEI STYLE

早期の退職、セクハラ、市教委を装ったアンケート……。大阪市の公募校長がマイナス面で話題になることが続いている。報道がすべて真実とは思わないものの、難しい立場だけに大きく取り上げられやすい。同じ公募校長として選ばれ、研修を受け、小学校校長として現場にいる私への視線も厳しい。マスコミや世間に「不適格だ」「辞めてしまえ」と言われ続けているようで、正直なところ辛い。

私の配属された「チーム敷津」は、少ない人数で奮闘している。アットホームで仲の良い職場だ。中でも、公募校長の下で働くことを「宝くじに当たったようなもの、早々できる経験じゃない」と楽しんでくれる教頭先生の存在は大きい。

区の「校長会」に救われる

他にも、私が感謝したい相手がいる。それは、浪速区の校長会に所属する校長先生方だ。浪速区には9校の小学校があり、どこも小規模校だ。だからと言って、運営は決して楽ではない。校務分掌や学校行事は人数が少なくとも、他の学校の種類と変わらないからだ。

校長会がなければ、悩みを相談する先に困ったと思う。指導主事と呼ばれる、教育委員会側からのアドバイザーの方はいる。しかし、区の行事で会ったり毎月の校長会であったりと、こまめに顔を合わせて相談できる校長先生たちがいることで、何度も気持ちが救われた。

8月には区の校長会で、宿泊行事先の候補見学も兼ねた親睦旅行があった。

旅行先で、ツリークライミングを体験した。ロープ1本で5メートルを超す木に登る。運動が苦手な私が3メートルぐらいのところで登りあぐねていると、ベテラン校長のS先生に声を掛けられた。

「一番若いのにだらしないぞ!」

「私、体育が『1』だったんですよ……」

弱音を吐きつつも、発破をかけられて力を振り絞った。

ロープがかかっている枝まで登り切り、枝の上に立って手を振る。

先に降りている校長先生たちが、拍手を送ってくれた。

無邪気に、うれしかった。

「無理かも」が「できた!」に変わった瞬間って、こんなにうれしいんだ。

スポーツでも、勉強でも、何でもいい。子どもたちにこの達成感を与えたい。特に、しんどい子どもたちを抱える学校は、その一念で動いている。

夜、飲み会の席でS校長先生がしみじみと言った。

「いやー、今日はつくづく思った。よっぽどのことがない限り、通知票に『1』ってつけるもんじゃないな」

なぜ? という周りの問いかけに、S校長は続けた。

「山口さんが、木に登っている時に『体育が1だったからできない』って言ったでしょ。もう学校を出て20年以上たってるのに、まだこだわって自信をなくしている。だからカンタンに『1』をつけたらアカンなぁって。先生の責任って重いんやと、改めて思った」

ベテラン校長の思いやりに満ちた言葉に、絶望的な気分で体育の時間を過ごしていた当時の私まで、慰めてもらったようだった。

「教師出身校長VS民間人校長」ではない

この夜、別の校長先生からはもう1つ、うれしい言葉をかけていただいた。

「山口さんが民間から来て、新しい物の見方にハッとさせられることも多い。その視点を取り込みながら、僕たちは経験を生かした学校改革をやればいい。そうして大阪の教育全体が変わっていかないと」

マスコミは「教師出身校長VS民間人校長」といった図式を作りたがっている。少なくとも、私を取り巻く人間関係は違う。私に声をかけてくださる校長先生方は、優しい。そして、私にとって全員がベテランの「先生」だ。聞き上手、教え上手の方が多い。私を褒めて、やる気にさせてくれる。

先日の校長会では、悩んでいる「周年行事」について質問をさせてもらった。

来年の5月、敷津小学校は140周年を迎える。式典を大規模にやるべきか、コンパクトに「学校のお誕生会」として児童主体でお祝いするか。それぞれの学校の経験や、航空写真を安くあげる方法などを教えていただいた。

教えてもらうたびに、思う。

私に返せることは、何だろうか。

新しい視点を持ち込むこと、それもある。他にも役割としてできることは、積極的にやっている。また、発信力を高めることで、公立小学校の内情を知ってもらうのも役目だと考えている。

こまめに発信を続けるのは「現場の代弁」をしたいからだ。最近は、「これっておかしいやろ、ブログに書いといて!」と校長先生方に冗談まじりに頼まれる。

書いて欲しいと頼まれたことの1つに「地域と学校の関係」がある。

学校を取り巻く地域の熱意や、伝統に振り回される学校は多い。しかし。それでは、本来の学校運営に支障を来す。

8月に、神戸で関西圏の校長が集まって情報交換をする会があった。グループワークで一緒になった校長先生からは口々に「地域からの要求や行事が多い」との嘆きが漏れた。私も、地域主催の行事や飲み会の多さに驚いた。

「子どもが少ない」「なんで先生が顔を出さへんねん」「あの校長の時はもっと来てくれはった」

昔の学校のイメージのままに、教職員の動員を要求されると今の学校現場は辛い。業務量は増え、個別の児童対応が難しくなっている中でどこまでやれるか、管理職としての判断が問われる。子どもたちも多忙だ。PTA活動のからみで、特定の児童に負担がかかることもある。幸い、敷津地域の方は話を聞いてくださる方ばかりだ。ただし、ネットでの発信は、地域には届かない。会って説明をしなければ伝わらない。

浪速区役所で行われる校長会には、どの校長先生も自転車でやってくる。

私も黄色い「しきつ0号」に乗って、地域を走る。あちこちから「校長先生!」と声をかけてもらうようになった。ふと、『二十四の瞳』の「おなご先生」になったような錯覚に陥る。「学校マネジメント」「学校改革」というキーワードとは逆方向の、古典的な校長の仕事だ。量や内容の見直しはそろそろ必要だ。しかし、地域の温かさに触れるにつけ、単純になくしてはいけないものだと感じている。

助けあい、学びあって教育を変える

地域と学校の問題は、民間人視点だけでは判断しにくい。いや、全てのテーマにおいて「民間人だけで議論する」ことは危険だ。公立学校が外に出せずに悩んできた課題は、たくさんある。誰かが変えてくれるのを待たず、現場で必死に対応してきた歴史と経験がある。

私自身も「愚痴を提案に変える」を指針に、いつも考えている。現状はすぐには変わらない。訴えながらも、目先の問題を先送りにはできない。以前書いた「子どもの安全のためにモニターカメラを運動場に設置する」ことが、先日ようやくできた。

敷津小に来た当初、運動場が見えない職員室に驚いた。安全性を問うと「今まで何とかやれていたので」と諦めの空気があった。いざ工事が済んで職員室から運動場の様子が見えると、教職員の安全意識がより高まった。特に、運動場からも死角になりがちなジャングルジムが見えるようになり、危険な遊び方を注意しやすくなった。

他にも、図書館を整えてホワイトボードを入れ、自習室としても使えるようにした。ファイル棚を大量に買い、自主プリント学習のサポートも始める予定だ。正直なところ、まだ手探りだ。休憩時間もろくに取れない担任に負担をかけず、放課後学習をサポートするにはどうするか。人を雇うお金はない。

公立中学校で始まるバウチャー制度が、小学校に来るまで待っていては、目の前の子どもたちに間に合わない。

一校だけ、成功しても何の意味もない。また、どんな成功事例も自校に合わせたカスタマイズが必要だ。秋田県の「自学ノート」を取り入れているクラスもある。それぞれの担任が、クラスの実態に合わせたペースや内容で子どもたちを導いてくれている。

「愚痴を提案に変える」。

「無理かも」を「できた!」にしよう。

公募校長を巡る報道の全てが真実かどうか、私自身もわからない。ただ、民間人も公務員も関係なく、地道に取り組む教職員や管理職は大阪中にいる。そのことを知ってもらえるとありがたい。

山口照美(やまぐちてるみ)
同志社大学卒業後、大手進学塾に就職。3年間の校長経験を経て起業、広報代行やセミナー講師、教育関係を中心に執筆を続ける。大阪市の任期付校長公募に合格、2013年4月より大阪市立敷津小学校の校長に着任。著書に『企画のネタ帳』(阪急コミュニケーションズ)『売れる!コピー力養成講座』(筑摩書房)など。ブログ「民間人校長@教育最前線レポート」(http://edurepo.blog.fc2.com/)も執筆中

(構成 日経BP共働きプロジェクト・日経DUAL編集部)

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