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ライフコラム
子どもの学び

2014/7/22

子どもの学び

情報が少ないなら全体は気にしなくていい

(2)三角形DEFの面積を求めなさい。

1.で答えた斜線部分の違いが、3つの頂点A、B、Cのそれぞれで起こり、その和が、47.86平方センチメートルと53.44平方センチメートルの差であることは何となくわかる。しかしそこから先、いったい何を手がかりに面積を割り出せばいいのか。試しに、1.で答えた点Aの周辺の2つの斜線部分の面積をそれぞれ計算してみようとするものの、円Pの半径が1cmであること以外ヒントがない。これではお手上げだ。私は途方に暮れた。そこで布村教諭がヒントをくれた。

「普通の問題なら、サイズがわかっていて、それを土台に地道に計算をしていくことが多いでしょう。全体の状況がある程度わかっていることが多いはずです。しかしこの問題の場合、三角形ABCについて辺の長さも角度も全然わかっていないわけですよね。情報が足りなさすぎるわけです。とうことは、逆に全体を見なくていいのだと発想を転換してほしいんです。知りたいのは斜線部分の面積の差なのですから、そこだけを寄せ集めればいい。するとこうなるでしょう」

描いてくれたのは小さな三角形だ。その内側に半径1cmの円が内接している。要するに、三角形ABCの内側に沿うように円Pを動かした場合、3つの頂点A、B、Cのそれぞれの近くの斜線の部分だけを組み合わせるとこの形になるのだ。(1)の1を3つ合わせた形である。なるほど!

同様に、三角形DEFの外側に沿うように円Pを動かした場合、3つの頂点A、B、Cのそれぞれの近くの斜線の部分だけを組み合わせると次のようになるのがわかるだろうか。(1)の2を3つ合わせた形である。

この2つの三角形は、1辺の比が1:2の相似形を成している。ということは、面積比は1:4であるということ。もうおわかりだろうか。

53.44平方センチメートル-47.86平方センチメートル=5.58平方センチメートル

5.58平方センチメートルが2つの三角形の斜線の面積の差。それが面積比1:4の差3に等しいのだから、

5.58平方センチメートル÷3=1.86平方センチメートル

1.86平方センチメートルが小さい方の三角形の斜線の部分の面積である。これを47.86平方センチメートルから引けば、三角形DEFの面積が出るというわけ。

47.86平方センチメートル-1.86平方センチメートル=46平方センチメートル

正解は46平方センチメートルである。

「長さや角度などの具体的な情報が足りない場合には、『きっと比の概念を利用するんだな』と発想してほしい。そういう頭の切り替えの速さを試しています」と布村教諭。私には、ヒントがなければお手上げだ。

(3)三角形ABCのまわりの長さは、三角形DEFのまわりの長さに比べてどれだけ長いですか。

どこから手を付けていいのかもうさっぱりわからない。

「長さを聞いているわけではなくて、長さの違いを聞いているのですから、2つの三角形のまわりの長さの差がどのような形で表せるか考えてみてください」というのが布村教諭のヒントだ。それでもわからないので、作図してもらう。

三角形ABCのまわりの長さと三角形DEFのまわりの長さの差を図に表すと、その違いは(2)で描いた半径2cmの円に外接する三角形の辺の長さの和に相当することがわかる。

ではその辺の長さの和をどうやって求めればいいのか。角度も高さもわからない。

「(2)で各頂点の近くの斜線部分の面積がわかっていますよね。真ん中の円の面積は簡単に出せますから、それを合わせれば、三角形全体の面積が出せます。三角形全体の面積がわかれば、辺の長さの合計を出す方法はあります」

いわれるがままに、三角形の面積を求めてみる。

(2)で描いた小さい三角形と大きい三角形の面積比は1:4であることがわかっている。各頂点の近くの斜線部分の面積は、小さい方が1.86平方センチメートルであることもわかっている。ということは、大きい三角形の各頂点の近くの斜線部分の面積は、1.86平方センチメートル×4=7.44平方センチメートル。内接する円の半径は2cmだから、その面積は、2cm×2cm×3.14=12.56平方センチメートル。よって、7.44平方センチメートル+12.56cm2=20cm2が大きい三角形全体の面積であることがわかった。

さて、三角形の面積がわかったところで、その外周の長さをどうやって求めるのか。

「ここまでくれば、中学受験生なら楽勝です」

布村教諭はそういうと、図に補助線を描き入れた。

「こうすれば、高さが2cmの3角形3つに分けられますね。こう考えれば、それぞれの辺の長さはわからなくても、辺の長さの合計はわかるはずです」

三角形の面積の公式は「底辺×高さ÷2」。高さは3つとも2cm。ということは、

(底辺1+底辺2+底辺3)×2cm÷2=20平方センチメートル

底辺の長さの合計=20cm

正解は20cmだ。

定期試験よりもたくさん部分点を付ける

いわれてみればなるほどという美しい解法である。しかし、手取り足取り教えてもらわなければ、私には到底正解できない問題だ。いったいどれくらいの受験生がこれに正解できるのか。

「この問題の配点は、(1)が4点×2、(2)が6点、(3)が6点です。合格者の平均得点は、(1)が6点。かなり高い確率でここまではできています。しかし、(2)が1.6点、(3)が0.3点。かなり難しい問題だったようです」

少し安心した。布村教諭は続ける。

「だからこの問題が合否をわけたかというとそういうわけではない。でも、こういう問題ができる子を求めていますというメッセージを込めて、あえて出題しました。こういう問題にどんどん挑戦したいと思う子に、来年受験してほしいと思います」

さらに作問における裏事情も教えてくれた。

「もともと、(1)はありませんでした。いきなり(2)と(3)を聞く問題でした。しかしそれではあまりに難しいだろうということで、(1)を設けました。これが(2)、(3)を解くためのヒントであり、ステップになっているのです」

しかし、たくさんの段取りを踏まなければ正解にはたどり着けない。途中でたとえば、半径2cmのところに半径1cmを挿入してしまうなどというケアレスミスもあるだろう。実際私も何度かやらかした。

「途中で間違った数字を挿入してしまったがために最終的な答えが間違っていたとしても、考える道筋が正しければ部分点をたくさん付けます。うちの中学入試では、中学高校での定期試験よりも部分点をたくさん付けますから安心してください」

さらに布村教諭は続ける。

「最後はきれいな答えでしょう。いいところまでいって最後に複雑な計算で計算ミスをしてしまうのは悔しいでしょうから、最後のほうになればなるほど面倒な計算が不要になるように問題をつくっています。だから問題文の中の数字が細かいのです。逆にいえば、設問の中の数字が細かいときには答えはきれいな数字になるはずだという予測もつくはずです。うちの入試では部分点をたくさん付けると言いましたが、いきなり答えだけを書いてもそれが正解なら、それでも満点です。最後の答えが綺麗な数字になるであろうことを見越して、10か20か30かと見当を付けて、感覚で20と答えてくれても満点です。そういう数学的な勘の働く子にはぜひ入ってきてほしい」

「地道に努力しろ」という指導はしない

これは面白い話だ。「算数の入試問題では、地道に泥臭く積み上げる力を見る」という学校が多い。しかし東大寺は逆なのだ。それはどういう意図なのか。

「うちの学校ではコツコツ努力するだけではだめだという指導をします。みんな感覚の鋭い子ですから、時間をかけずにどんどん先にいってほしい。1段1段積み上げるのではなくて、2段飛ばしくらいでちょっと高いところを目指させると、実際うちの子どもたちは見事に飛び乗ってきます。男子校ではそのような指導のほうが伸びます。勉強にかける時間を最低限にして、余った時間を部活や趣味にどんどんあてなさいと指導します。それができる子どもたちを集めて、ハイレベルな中でお互いを研鑽してほしい。それが東大寺の教育です。だからこのような問題を出しています」

ここまで言い切れる学校はなかなかない。

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