本当の「アンチエイジング」は60歳、70歳になっても病気にならないこと
――白澤さんは、順天堂大学大学院医学研究科で「加齢制御医学講座」をご担当されているということですが、加齢制御医学とはどんな学問なのですか。
白澤 アメリカでアンチエイジングの流れが1990年くらいから台頭してきました。アンチエイジングには、例えば40歳の人が30歳くらいの若さの体に戻るという意味合いがありました。年を取ると、成長ホルモンの血中濃度がだんだん減ってくるのですが、30歳くらいの人の血中濃度になるように40歳の人に成長ホルモンを注射して補充すると、だんだん筋骨隆々になってくるのです。老人になると皮膚が薄くなりますが、成長ホルモンで皮膚が厚くなります。それで、エイジングに逆行できるのではないかというアンチエイジング医療が出てきたわけです。
それが日本に上陸したときに、これをどう訳すかということになり、医学会は「抗加齢」という言葉を選んだのですが、この言葉はあまりはやらなかった。はやってきたのはカタカナのアンチエイジング。これが2005年くらいから流行になりました。アンチエイジングというと外見のイメージが強いです。「若々しく見える」イコールアンチエイジング。見た目を若くするのがアンチエイジングというふうに一般の人はとらえがちです。
これに対して僕が取り組んできたのは体のなかの細胞が若々しいと病気になりにくいという考え方でした。細胞の老化、加齢のプロセスをコントロールすることによって60歳、70歳になっても病気にならないという本当のアンチエイジングなのですが、むしろ言葉を変えたほうがいいと考え、5年前に順天堂大学に来た時に「加齢制御医学」の講座を始めました。つまりエイジングのプロセスをうまく自己制御することで若々しく年をとっていく方法があるのだという学問を新しく始めたわけです。
「長寿遺伝子」スイッチのオン・オフに生活習慣が影響
――アンチエイジングという言葉は加齢に逆らっている感じがあり、コントロールというほうが、自然な感じはしますね。
白澤 遺伝子のなかに、加齢や老化のプロセスを制御する遺伝子があります。この遺伝子の働きのいい人は年をとっても非常に若々しい。一方、この遺伝子の働きが悪い人はどんどん老化していき、いろいろな病気を発症していきます。例えばアルツハイマー病とか、骨粗しょう症とか、加齢に伴って出てくる病気を発症します。
この遺伝子は長寿遺伝子といい、病気の発症にも関係しているし、細胞の老化のプロセス自身をコントロールしています。加齢制御法というのは寿命をコントロールしている遺伝子の制御法ということになります。