結婚より「卵子の凍結保存」を希望する米国女性米国NPの診察日記 緒方さやか

凍結保存するタンクから凍結卵子の入った容器を取り出す。日本でもがん治療の前に卵子を凍結保存するなどの不妊対策をとる医療機関が登場している(写真と本文は直接関係ありません)

「子供が欲しくて、焦って気が合わない人と無理に結婚して、後に離婚調停でお金がかかったり、逆に年をとってからいい人が見つかって不妊治療代を払うことを考えたら、今お金を使って健康な卵子を保存する方が、貯金しておくより断然いいわ」と、きっぱり言う彼女。

「いくら凍結保存といっても、早めに使う時が来るといいね」

「そうねえ」

そうして、話題は新しい恋人のことに移っていった。彼にとっても、新しい彼女から「子供を作るのにタイムリミットがあるから早く結婚したい」と言われて重荷に感じるより、 「卵子を凍結してあるから、時間をかけてお互いを知り合おうね」と言われる方が、気が楽なのだろうか? 面白い時代になったものだ!

中流社会の結婚観は超ロマンチック

アメリカの中流社会では、結婚の際には収入や学歴より、「魂のマッチング」を重視する。結婚は「真の親友、ソウル・メイトを探し当てた証し」だという、超ロマンチック主義なのだ。

日本でも同じかもしれないが、多くの働く女性にとって、恋人探しは決して簡単ではない。優秀な女性は専門職や会社の幹部など、能力に合わせてキャリアを伸ばせるようになってきた。同時に、アメリカの職場はヨーロッパ諸国に比べて勤務時間も長いことが多く、相手探しに費やせる自分の時間や趣味の時間が限られているといわれている。そこで結婚相手を妥協するよりも卵子の凍結を選択する、その合理性は実にアメリカ人らしい。

もちろん、 いくら彼女が(比較的)若いとはいっても、解凍後の卵子での妊娠、出産は確率的に低く、保証があるわけではない。卵子の凍結を「神を冒とくする行為」として反対するキリスト教団体も多くある。新しい分野のため、生まれた子供に健康上の問題がないのか、またホルモン注射を受けた女性の卵巣がんのリスクはどうなっているのかなど、はっきりしないことも多い。しかし、リスクや倫理的な反対論はあるにせよ、今のアメリカで、ごく一部とはいえ既に女性の生き方の選択肢として存在していることは否めない。

生物学上、このような選択を迫られない男性を羨ましく思いつつ、この分野が将来どう伸びていくのか、変わりゆく生殖分野の将来を、興味深く思っている。

緒方さやか(おがた・さやか)
婦人科・成人科ナースプラクティショナー(NP)。2006年米イェール看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。「チーム医療維新」管理人。プライマリケアを担うナースプラクティショナーとして、現在、マンハッタンの外来クリニックで診療にあたる。米ニューヨーク在住。

[日経メディカルオンライン 2012年5月18日付記事を基に再構成]

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