抜け出るのは誰だ? 次世代ヒロイン決戦
芸能プロダクション研究(3)
日経エンタテインメント!
芸能プロダクションにとって、各年代で女優を育て、年齢層ごとのばらつきを作らないことが重要だ。プロダクションを代表する女優の年齢が上がったとき、空いた世代を演じられる若手がいなければ、事務所内の相乗効果が生まれず、経営の広がりが望みにくいからだ。ここでは、若手女優を次々と輩出している14の芸能プロダクションを選出。女優をプロダクションと年齢別に分布した。
下に掲載した表1を見ると、プロダクションごとに充実している世代、間が空いている世代が一目瞭然だ。
例えばアミューズは、17歳から20歳の世代の人材が手薄だ。その上に当たる世代で上野樹里、仲里依紗、吉高由里子という3人の人気女優がいるので急いですぐ下を育てなくてもいいという側面がありそうだが、さらに下の世代となる15歳の三吉彩花らをどう育てていくのか、注目される。
オスカープロモーションは、上戸彩以降、少し世代が開いたが、20歳以下に、剛力彩芽、忽那汐里、武井咲と各世代に注目株が育ってきており好調だ。
研音は榮倉奈々、志田未来、成海璃子など、ほかの芸能プロや児童劇団から有望な女優を移籍させ、主演級に育ててきたが、最近は川口春奈、杉咲花と生え抜きの若手がうまく育っている。
23歳以下の各世代で女優の成長が目覚ましいのが、堀北真希、桐谷美玲、桜庭ななみを擁するスウィートパワー、戸田恵梨香や福田麻由子がいるフラーム、新垣結衣、川島海荷がいるレプロエンタテインメントだろう。
スターダストプロモーションは、いずれの世代でも主演級の女優を育ててきた。25歳の北川景子以下、20~23歳の層も厚く、最近では本田翼がCMをきっかけに話題を集めている。今後の課題は18歳以下の育成だ。
音楽系事務所からも台頭
木村カエラや西野カナも所属するソニー・ミュージックアーティスツは、従来は音楽系プロダクションのイメージが強かった。だが、自社で主催したオーディションで発掘した倉科カナがNHK朝ドラのヒロインに選ばれて人気を得てからは、テレビ局や映画界とのパイプも強化されて、各世代で若手女優が育ってきた。一人の女優の成長が発端となって、女優の層が厚いプロダクションに変化することができる好例だ。
テンカラットは、田中麗奈、香里奈以来の大物感を秘めた若手として、三根梓(みねあずさ)に注目。同社は女優・タレントを手がけるマネジメント事業部に加えて、2011年に芸能プロダクションのアプレと俳優をマネジメントするアプレ事業部を立ち上げ、高良健吾らが移籍してきた。三根の初主演となる映画「シグナル~月曜日のルカ~」には高良も出演している。今後は、女優の育成にもより力を入れていくだろう。
杏、佐々木希を相次いで送り出したのは、少数先鋭のトップコート。次の期待株として同社が押す上間美緒に要注目だ。
ヒラタオフィスは、宮崎あおい、多部未華子が日本映画を代表する女優となり、映画に強いプロダクションという印象がある。最近は目立った若手がやや少なく、今年2本の出演映画が公開される松岡茉優に期待したい。
一つのプロダクションに異なる世代の女優がいれば、自社の女優が主演する連ドラで、「うちにはこういう女優もいますが、妹役などに起用していただけませんか?」とプロデューサーにキャスティングの提案をすることができる。「バーター」と呼ばれる手法だが、お笑い芸人がバラエティー番組などで言うようになったことから一般的にもなじみのある言葉になってきた。
バーターは、芸能プロダクションにはメリットが大きい。あるプロダクション関係者は「セットで認識してもらい両方のファンになってもらえる。一例としては、オスカープロモーションに所属する武井咲さんと剛力彩芽さんがたびたび一緒のドラマに出演していた。それを見て武井さんファンが剛力さんのファンにもなったケースは多いはず」と前向きにとらえる。
事務所のカラーを打ち出す
最近は、個々の女優や俳優ではなく、「スウィートパワー・モバイル」(スウィートパワー)、「トップコートランド」(トップコート)など、事務所ごとのファンクラブや公式モバイルサイトを作っているところが増えている。「震災後はプロダクション単位のイベントが増え、事務所のカラーを打ち出すことが必要になってきています」(同関係者)。
コンスタントに若手を育ててプロダクションの知名度が上がれば、街頭でのスカウト活動でスカウトマンが名刺を手渡したときにも、安心して話を聞いてもらいやすいといったメリットもある。スカウトがしやすくなって、有望な新人を獲得するチャンスが増すという好循環が生まれるわけだ。
さきほど掲載した表1を横で比較すれば、同じに世代にいる、ほかのプロダクションの女優が分かる。層が厚い世代は、ドラマや映画の役の奪い合いになることも多く、あえて同じ年齢の新人は作らずに、少し世代をずらして、新人を育てるという方法を取ることもある。
女優豊作年といわれる88年生まれ世代は、新垣結衣、黒木メイサ、戸田恵梨香、堀北真希らがいて、ヒロインタイプの女優の層が厚い。ホリプロは、この年代(現在の21歳~23歳以上)には、助演でも味を見せる演技派の佐津川愛美がいるものの、ヒロインタイプの女優はいない。同社には年齢が数歳だけ上になる石原さとみがいることもあり、し烈な同世代争いは避ける戦略を取ったようだ。
これらU‐23世代の女優たちが連ドラや映画のヒロインの常連に定着し、大人の女性の役が似合う年齢になってきた。高校生や大学生の役柄を演じることができる10代の次世代女優のニーズが高まっている。大ブレイクし、所属事務所のイメージアップにも貢献することができるのはいったい誰だろうか。
(連載終わり)
(ライター 高倉文紀)
[日経エンタテインメント!2012年6月号の記事を基に再構成]
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