快眠は最高のダイエット
太りやすい人は睡眠をまず点検
日経ヘルス編集長 藤井省吾の「健康時評」
「最近、めっきり太りやすくなって」と、相談されたとき、このごろ真っ先に尋ねるのが、「睡眠時間は十分ですか? 寝不足ではないですか?」という質問だ。
ここ数年、睡眠とダイエットの関係が深く研究されてきた結果、睡眠不足は太るもとで、睡眠が十分なだけでやせてくる効果がありそうだということが分かってきたのだ。
研究から、はっきりしてきたのが食欲に関わるホルモンの変化。1000人を超える男女の睡眠時間と、体内のレプチン、グレリンという二つのホルモンの分泌量を調べた。すると、「もう満腹で、食べないでいい」と信号を体に出す役割で、"満腹ホルモン"とも称されるレプチンは、睡眠時間が多いと十分出るが、睡眠不足だと少なくなることがわかった。一方、その逆で、「まだまだ食べたい」という信号を体に出す役割で、"食欲ホルモン"ともいえるグレリンは、睡眠不足の人ほど多いことがわかった。
つまり、睡眠不足だと、自分の意思にかかわらず、ついつい食べ過ぎるということが、ホルモン面で証明されたということだ。
実際に7000人を超える男女の体重を5年~7年にわたり調べた研究で、「寝付きにくい日が多い」「熟睡できない」などの項目が当てはまった人は、体重が増加するリスクが高まるという研究も明らかになっている。
■睡眠の質と量を点検、太りにくい生活に変える
そこで、点検したいのが、睡眠の量と質だ(下の表参照)。
睡眠とダイエットを調べた研究の多くで、「4時間睡眠」では悪影響が出ると分かっているので、最初の質問に該当する人はまずチェック項目に×を。
また、睡眠医学の現場で、医師らが問題にしているのが睡眠不足症候群という状態。眠りが足りず、ぼーっとしたまま平日を過ごし、休日に昼まで寝て、帳尻を合わせるタイプの人に多い。これも当てはまるなら×を。これら二つが睡眠の量のチェックだ。
朝イチから、「疲れた」と感じているのは、質に問題がある証拠。また、いびきをかく人も、程度によるが、気道の流れが悪くなっている状態なので、質が悪くなっていると考えた方がいい。
■3時間の時間差が年間2.4kgの体脂肪に
とはいえ、「仕事が忙しく、どうしても睡眠時間を削りがち。夕食も帰宅後の深夜23時ごろが多い――」という人も多いはず。そんな方は、せめて夕食の時間だけでも、早めたい。
花王が日本肥満学会で報告した研究によると、同じカロリーの食事をしていても、22時の夕食と19時の夕食では、19時の早めの夕食のときの方が、一日に消費されるエネルギーは50kcal多いと分かった。3時間の時間差だけにもかかわらず、1年間でなんと2.4kgの体脂肪蓄積の差につながるのだという。
また、時間遺伝子という体内時計の最新研究からも、夜遅めの夕食、ましてや深夜の夜食は太りやすいと分かってきた。
日本大学薬学部の榛葉繁紀准教授らが見つけたのが、時計遺伝子と関連するBMAL1(ビーマルワン)というたんぱく質。これは体内で、脂肪の合成と蓄積を促すたんぱく質なのだが、時間でコントロールされていて、昼は少なく、夜になると増え、深夜の2時に最大値になる。
マウスでの研究では、BMAL1の量は19時ごろに比べて、深夜2時ではおよそ4倍。人間とマウスの違いはあるとはいえ、食べたエネルギーが、それだけ体脂肪に変わりやすくなるということなのだ。
会社の健診でメタボの疑いとして「特定保健指導」の通知が来た方、最近、急に太りやすくなったと感じている方。こんな方々は、一度、睡眠の面から見て、太りやすい生活になっていないかどうか、点検することをお薦めしたい。
日経ヘルス編集長。東京大学大学院(農学系)を修了。1991年に医師向けの専門雑誌『日経メディカル』の記者として取材をスタート、98年からの『日経ヘルス』記者生活でも、医学と科学をベースに取材・編集を担当。08年から現職。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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