出版不況でも月刊誌続々創刊の理由 マンガ界注目ニュース(2)
日経エンタテインメント!
スマッシュヒット作も。マンガの青田買いは月刊誌に注目
昨今のマンガ業界では「雑誌が売れない」という話をよく耳にする。しかしそれとは裏腹に、ここ3年ほど、大手出版社による新月刊誌の創刊が相次いでいる。
その皮切りとなったのが、2007年の『月刊少年ジャンプ』の休刊を受けて、同年11月に創刊された『ジャンプSQ.(スクエア)』(集英社)。それ以降『月刊少年ライバル』『別冊少年マガジン』(講談社)、『ゲッサン』『月刊!スピリッツ』(小学館)などが相次いで創刊されており、ここ数年のマンガ界における大きなムーブメントとなっている。
それではなぜ雑誌不況の今、新月刊雑誌を出すのか。その理由を出版社に直撃取材してみたところ、いくつかの狙いが見えてきた。
まず、「新人作家の発掘」だ。『別冊少年マガジン』編集部の朴鐘顕氏によれば、「出版社の金看板である週刊マンガ誌の本誌は、売り上げを落とすわけにはいかない。そのため確実に売れる人気連載で固める傾向が強まっており、冒険的な新連載と試す新たな場を求めていた」とのこと。そこで月刊誌を立ち上げて、意欲的な新人を登用する動きが高まっているのだ。
「ベテラン・遅筆作家の受け皿を作る」という側面もある。体力的には週刊誌連載は厳しいが、月刊なら大丈夫だし、固定ファンがいて「描けば確実に売れる」という作家は数多い。また、「週刊少年誌よりもじっくりと作品を作り込みたい、とはいえ内容がファンタジー寄りなので青年誌向きでもない」(『ジャンプSQ.』編集部の嶋智之氏)作家も多いそうだ。このような作家たちの新たな活躍の場として、新月刊誌を機能させようという狙いだ。
発掘した新人からヒット作も
このほかにも「アニメやライトノベルとのメディアミックスを行う」「少部数雑誌で原価を抑えて細かく利益を出していく」といった、商業的な理由も多々あるようだ。現在のマンガ業界は雑誌単体では利益が出ず、単行本の売り上げでカバーしている雑誌がほとんど。そのため「雑誌の売り上げには最初から期待せず、単行本のタマ(作品数)を増やしたい」といった意図があるのだろう。
このような背景から乱立した新月刊誌だが、創刊後の手ごたえは雑誌によりまちまちなようだ。『ジャンプSQ.』は、『週刊少年ジャンプ』のネームバリューにも支えられて30万部以上をコンスタントに発行している。対して『別冊少年マガジン』は6万部程度の発行にとどまっているとのこと。
ただ、新たな成果が着実に出てきている。『別冊少年マガジン』の朴氏は、「新雑誌ができたここ数年、編集部への新人作家の持ち込み数が急激に増加している」という。新雑誌の創刊により間口が広がり、新人の入り込める「隙(すき)」が大きくなった。持ち込まれる作品も、個性的な作品が多くレベルも高いという。
実際、新雑誌からも『進撃の巨人』や『屍鬼』などヒット作が輩出されている。これらの新雑誌が発掘した新人の中から、今後のマンガ界を担う人材が現れるかもしれない。「将来の大作家を青田買いしたい!」という新しモノ好きな人は、新月刊誌に要注目だ。
東京都が通したがっている「非実在青少年」条例とは?
今年に入ってマンガ業界を大きく揺るがしたのが、東京都議会に提出された「青少年健全育成条例」の改正案だ。
改正案には、「アニメやマンガに登場する18歳未満のキャラクターを"非実在青少年"と規定し、性的描写の内容によっては"不健全図書"に指定して販売規制できる」という内容が盛り込まれていた。さらに「作中での設定が成人であっても、外見が幼い場合は"非実在少年"とみなす」という内容も含まれている。
「青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるものは排除したい」と願う親たちや、「日本が児童ポルノの製造国」と批判する日本ユニセフ協会などの動きが活発化したことなどから、この条例改正案が持ち上がった。
この改正案が可決されると、都の担当者の判断で一方的に不健全図書指定を行うことが可能となる。例えば条例の条文をそのまま解釈すれば、『ドラえもん』のしずかちゃんの入浴シーン程度でさえ「不健全」となる可能性がある。都では「そのような判断は行わない」旨のコメントは出しているものの、条例の文案はあいまいで恣意(しい)的な解釈の余地を残している。
出版社はほとんどが東京都にあり、販売も東京の占める割合が大きい。「東京で販売できない」となると部数は見込めず、その本自体を発行できなくなる。つまり実質的な「発禁」につながるのだ。そうなると、作り手は表現に対して萎縮し我々は面白い作品が読めなくなりかねない。
これに対しネットを中心に反対意見が盛り上がり、日本漫画家協会、出版倫理協会、日本ペンクラブなど、様々な団体も「表現規制」であるとして大きく反発。こうした動きを受けて、改正案はひとまず6月に否決された。しかし、今後も同様の改正案が形を変えて再提出される見込みだ。
(ライター 芝田隆広)
[日経エンタテインメント!2010年9月号の記事を基に再構成]
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