製作は厳選、パッケージは多面展開 ディズニー新戦略
日経エンタテインメント!
【Part1:映画・ハリウッド戦略】
製作本数を絞り、長期的なマーケティングで効率的にヒット生む
ハリウッドのスタジオの最新勢力図を見ると、2013年11月10日時点の米国の年間総興行収入1位はワーナー・ブラザースで16億1600万ドル(公開本数16本)。2位はユニバーサルで13億2700万ドル(13本)。3位はディズニー・スタジオで12億5600万ドル(7本)。1本あたりの平均興収で見ればディズニーは1億7900万ドルとなり、ワーナーやユニバーサルの2倍近い成績。ヒットの確率が最も高い。
ディズニーは現在、既に2016年までのラインアップを発表しているが、これほど先までの公開予定を明らかにしているスタジオはほかにない。強力なブランドを核に製作本数を絞り、先々までのラインアップを発表して長期的なマーケティングを練る戦略が成功しているといえる。
ディズニーはアニメを中心に、実写においてもファミリー向け映画に定評があったところに、マーベル・スタジオを2009年、ルーカス・フィルムを2012年に買収。「アベンジャーズ」をはじめとするマーベルのアメコミ原作映画と、ルーカス・フィルムの「スター・ウォーズ」という男性向け映画の強力な作品群が加わり、盤石のラインアップになった。
日本では2013年10月下旬にラインアップ発表会が行われた。今後の公開予定作品について、ディズニーが抱える6つの製作母体ごとに紹介しよう。
ウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオでは、触れるものを凍らせる力で王国を冬の世界に変えてしまった女王エルサと王国を救うために妹アナが奮闘する「アナと雪の女王」、マーベル・コミックスにインスピレーションを得て製作するアクション・アドベンチャー「ビッグ・ヒーロー6」、動物たちの世界を描く「ズートピア」が控える。
ピクサー・アニメーション・スタジオでは、人間の感情をキャラクター化した「インサイド・アウト」、人間と恐竜が共存する世界を描く「グッド・ダイナソー」、「ファインディング・ニモ」の続編となる「ファインディング・ドリー」がある。
スター・ウォーズの新作は2015年公開
ディズニートゥーン・スタジオでは、飛行機の世界を描く「プレーンズ」のシリーズ2本が控える。
マーベル・スタジオでは、2012年に大ヒットした「アベンジャーズ」のその後を描く「マイティ・ソー/ダーク・ワールド」「キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー」「アベンジャーズ:エイジ・オブ・ウルトロン」、新たなヒーローが活躍する「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」「アントマン」が控える。
ルーカス・フィルムでは、2015年に「スター・ウォーズ/エピソード7」が公開される。ディズニーでは2016年にスピンオフ作品、2017年に「エピソード8」、2018年にスピンオフ作品、2019年に「エピソード9」を公開すると発表しており、計画通りに進めば2015年から毎年スター・ウォーズ関連作が公開され、マーベルに並ぶライブアクションの柱となる。
ディズニー製の大作では、創設者ウォルト・ディズニーの人生を題材にしたり、ディズニーの数々のキャラクターを活用した作品が増えている。「ウォルト・ディズニーの約束」は不朽の名作「メリー・ポピンズ」の映画化舞台裏を、ウォルト・ディズニーと原作者P・L・トラバースの間に交わされたある約束を軸に描く。「マレフィセント」は「眠れる森の美女」の魔女マレフィセントをアンジェリーナ・ジョリーが演じるファンタジー、「トゥモローランド」はウォルト・ディズニーが残したトゥモローランドに関する資料を基にしたミステリーアドベンチャー、「シンデレラ」はシンデレラの物語を忠実に描くファンタジーだ。また「アリス・イン・ワンダーランド2」「パイレーツ・オブ・カリビアン5」と、人気シリーズ最新作も控えている。
ディズニーが2016年までラインアップを発表するのは、自社の作品同士がぶつからないような公開時期を早めに押さえる戦略で、大作の企画開発が順調に進んでいる自信の表れでもある。他社にとってはディズニーに先を越される格好になるが、ディズニーの競合作とぶつからないようにラインアップが組めるメリットもある。ディズニーの戦略が、ハリウッドのラインアップ全体に影響を与えているといえそうだ。
【Part2:新パッケージ戦略】
ネット時代に対応した新パッケージ「MovieNEX」が日本で発売
興収約90億円を記録した、2013年度の洋画No.1ヒット映画「モンスターズ・ユニバーシティ」が2013年11月20日に「MovieNEX(ムービーネックス)」としてリリースされた。
同日発売された「ミッキーのクリスマス・キャロル30 thAnniversary Edition」、「トイ・ストーリー」シリーズ、「モンスターズ・インク」に続いて、2013年12月18日には「パイレーツ・オブ・カリビアン」シリーズ4作品、そして2014年1月15日には2013年夏に公開された「ローン・レンジャー」がMovieNEXとしてリリースされている。このMovieNEXとは、ブルーレイ、DVD、デジタルコピー(クラウド対応)という3種類の本編に、購入者限定の特別サイトで様々なディズニー体験が楽しめる「MovieNEXワールド」の4つを1セットにした新パッケージのこと。
ディズニーは、これまで1つの作品で複数の商品を発売してきたが、今後は自社制作の映画についてはMovieNEXのみの発売となる。
MovieNEXに含まれる4つのコンテンツの使い方は自在。ブルーレイやDVDのディスクを使ってテレビやパソコンで視聴するほか、デジタルコピーでタブレットやスマホなどを使い、いつでもどこでも手軽に映画を楽しめる。さらに、購入者限定のサイトで映画に関連する様々なコンテンツも楽しめる。従来のパッケージの良さと、ネット時代に対応した映画の楽しみ方を組み合わせた新しいコンセプトの商品なのだ。
新しい映画の楽しみ方を提供する
なかでも特筆すべきは、ネットと接続して楽しむMovieNEXワールドの多彩さである。
例えば「モンスターズ・ユニバーシティ」では、製作総指揮を務めたジョン・ラセターの特別インタビューや限定メイキング、監督とプロデューサー来日記者会見Q&Aなど、ここでしか見られない映像が視聴できる。そのほか、オリジナルのデコメ(装飾メール)&絵文字のフリーダウンロードなどが用意され、情報も順次更新される予定だ。映画だけでなく、グッズや出版、音楽など多面的に事業を展開するディズニーならではのコンテンツといえるだろう。
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン マーケティング シニア マネージャーの小澤啓一氏は、「スマホやタブレットの普及に対応して、新しい映画の楽しみ方を提案したのがMovieNEXです。オンデマンドが日本より進んでいるアメリカからヒントをもらい、一方でパッケージへの愛着が強い日本の市場環境も考え、日本オリジナルの商品形態として発売をスタートしました」と話す。
パッケージ業界全体から見ると、これまでセルは各社からDVD単体、ブルーレイ単体、ブルーレイ+デジタルコピーなどの様々なタイプの商品がリリースされ、発売から数カ月後には廉価版として再発売されるケースも多かった。
それに対して、ディズニーでは今後、主要な新作映画についてはMovieNEXのみの商品を発売。本体価格も「4000円」に統一する。コンテンツの付加価値を高めて高単価で利益率を上げる戦略といえるが、ユーザーからすれば選択肢と廉価版がなくなるわけで、新パッケージがどこまで支持されるかは未知数だ。
この点について小澤氏は、「これまではディスクで作品を見れば終わりでしたが、購入者限定サイトによって、その先の映画体験が広がるのが今までとの違い。長期にわたって楽しめる、『進化するコンテンツ』という点に、価値を見いだしてもらえるはずです」と自信を見せる。
まだ同様のコンセプトで追随するメーカーは存在しないが、逆に言えば、信頼性の高いブランドに支えられた強力な作品群を抱え、グループ内に様々な事業部門を有するディズニーだからできた独自の新パッケージ戦略であり、パッケージ市場に投げかけたインパクトは大きい。
(ライター 相良智弘、安保有希子)
[日経エンタテインメント! 2014年1月号の記事を基に再構成]
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