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外から見えなかった運動会の「舞台裏」

~ママ世代公募校長奮闘記(12) 山口照美

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NIKKEI STYLE

小学校に着任して最初の運動会は、10月6日(日)。この日程ひとつ取っても、学校がいかに「調整」のもとに成り立っているか思い知った。熱中症対策で、春実施の学校が大阪市で徐々に増えている。しかし、伝統校であったり、地域の「そら、運動会は秋やろ!」という要望であったり、完成度の問題であったり、修学旅行など他の行事とのからみがあったり……。さまざまな要因を踏まえて、我が敷津小学校は今のところ秋開催である。

しかし、年々厳しくなる暑さに対し、数十年前からの「伝統」のせいで子どもを熱中症にさせるわけにはいかない。そこで、9月最終週に実施する校が多い中、1週後にずらして10月の第1日曜日に設定している。これは、体育を専門とする前校長の判断だ。ここにまた、弟妹のいる家庭からはそれぞれの幼稚園・保育園の日程とずらしてほしいという要望がある。

新しい「学校広報」が必要な時代

行事日程もろもろ、意見をあちこちからもらう。でも、わかってほしい。公立小学校は全員を100%満足させることはできない。いや、民間企業だって塾だって同じだ。全員に合わせるための、解決策は難しい。

ただ、要望と異なると相手に思われるケースで、説得力のある丁寧な説明ができるかどうかは大きい。学校現場は、この説明がやや苦手なのかもしれない。子どもにプリントを渡すだけでは届かない。机やランドセルの中から、「プリント団子」がごろごろ出てくる子がいる。保護者向けのメール、ホームページ、直接の電話など、時代と相手に合ったツールを増やして説明を繰り返す努力、つまり「次世代の学校広報」が必要になっている。在職中に、効果的な仕組みやマニュアルを作るようにしたい。

さて、運動会前1週間は、ハラハラしながら週間天気予報をチェックしていた。台風が来ると言われる中、降水確率は10%~50%を推移していた。中途半端な天気の時、「やるかやらないか」は最終的に校長判断になる。ベテラン校長は「職員が心配していても、どーんと構えて『え、やるよ? 準備しとこう』と校長がいうと、安心感が広がる。動揺を見せてはいけない」と教えてくださった。それは運動会経験数30回を超すベテランだからこそ、効くセリフだ。新人校長としては、「晴れてくれー」と願うしかない。

当日、快晴100%。

ほっとすると同時に、次の心配が生まれた。「せっかくの10月開催なのに、熱中症が心配!」……実際、この日は暑すぎた。

敷津小学校は人数が少ないので、児童用テントがある。ただし、5、6年生の分は無いのと、彼らは役割が多く座っている場面が少ないため、テントを張らずにいた。保護者アンケートの中に「5、6年もテントを張ってほしい」というものがあったが、大阪市を見渡しても児童席にテントがあること自体が異例だと理解してもらえると助かる。私の判断で、午後からは1~4年生の座席を詰めて5、6年もテントの下に入れた。来年度は、テントを増やすか何らかの方法を考えたい。

私が6年生保護者として参加していたら、学校の事情を知らずに「子どもが焼ける!」と心配になっただろう。中に入って、保護者視点と運営側視点の両方で体験して、自分の「つなぐ役割」を確認した。どちらの思いもわかる。学校は、精いっぱい考えている。正反対の意見を持つ保護者に、挟まれることもある。

子ども達の「ええとこ」を見てもらいたい!

通わせている保護者には見えないかもしれないが、子どもを持つ教職員からの意見も反映させて、学校現場は努力していることを伝えたい。

その思いやりは、プログラムの企画の段階からちりばめられている。どの子も、カッコよく見えるように。力を発揮して「ええとこ」を見てもらえるように。

敷津小学校は、全校児童90名の小さな学校だ。だから、全員の児童が徒競走の前に「一言宣言」をする。「4年い組 ○○です。3番までには入るようにあきらめずに走ります!」5年生では「5年い組○○です。ここで一句。『徒競走 力いっぱい がんばるぞ』」などと五七五を披露する者まで。子どもも親も、見せ場いっぱいのアットホームな運動会になっている。

組体操は、5、6年生合わせて24名しかいないため、教員や学生ボランティアを補助に入れて成立させている。大きな学校なら「10人タワー」は体の大きな選ばれた児童がやるべきだが、敷津小では全員の力を合わせて何とか立てている。単純な仕上がりの出来で比較されたくない、事情をそれぞれの学校やクラスが抱えている。

直前の練習では、女子のタワーが立てられないまま終わっていた。当日、2回やり直して無事に立った。その瞬間に、「失敗しながらようやく立てた」と思う一見の観客がいるかもしれない。

だが、担当した教員たちは知っている。怖がって背中に乗れない子どもたち、2段目の子の重みで立ち上がれない1段目、立ち上がるタイミングがそろわなくて崩れてしまった日、不安定な最上段で恐怖心と戦っている気持ち。

子どもたちが積み重ねて来た1カ月以上の練習の日々を、私たちは共有している。だから、泣く。また、担任や彼らの成長を眺めてきた教職員には、別の思いもある。私の隣で、前の前の校長先生が見てくださっていた。「あの小さなSがねぇ、大きくなったなぁ」。

今年、敷津小の運動会が最後かもしれない糸井教頭は、目を赤くして組体操を眺めていた。私たちにとって、あのタワーは失敗などではなく、あきらめずに子どもたちが本番で力を出し切った、最高にカッコイイ「完成品」だったのだ。

保護者席に目を向けると、泣いているお父さん、お母さんの姿が見える。私たちが預かった6年間以上の思いが、そこにはある。生まれたその日から、今日までの。

学校と日程がずれていたので、娘の保育園最後の運動会を見ることができた。彼女は、毎日まいにち、足を傷テープだらけにして、鉄製の竹馬に取り組んでいた。今日は何周トラックを回った、こんな技ができた……会えば運動会の話ばかりだった。当日、緊張してニコリともしない娘を見守る。兄妹同様に育った他の子どもたちにも、めいっぱいの声援を送る。全員が竹馬で山越えを成功させて並んだ時の、誇らしげな顔! 涙々の親同士、話さなくても「よかったね」「大きくなったね」という思いが通じ合う。

退場する時に目が合い、ようやくほほ笑んでくれた娘に手をふりながら、子どもってのは親のアイドルなんだと、親バカ丸出しで思う。だからこそ、しっかり見てほしい。でも、運営や安全上、優先しなければならないこともある。少人数だからできることでも、大規模校ではできない。それぞれの学校が、バランスを取りながら運営しているのだろう。そこに「地域の事情」「伝統」「教職員間の価値観の違い」が入ってきて、刺激的な運動会初体験だった。

守るべきもの、変わりゆくものを見極める

我が校では1、2年生が「りりしい低学年を見せる」というコンセプトで、ソーラン節を踊った。腰をしっかり落とし、力強いカッコかわいいソーラン節だった。しかし、別の学校の先生からは「4、5年生ぐらいでやるものでは?」「低学年はカワイイものが普通、掟(おきて)破り」と異論があった。私は担任の選択を尊重しているので、プログラムには一切口を出さなかった。ちなみに、全国的に低学年はきゃりーぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」が大流行だったらしい。外から来た私からすれば、ささいに思われるこだわりや、暗黙のルールもいくつかあった。

公立学校の運動会が数十年たっても大きく変わっていないことは、「前例主義」「横並び主義」に陥っている現れとも言える。若い先生や子育て世代の教職員がメインになっていく中で、若手の提案を「伝統」「ありえない」の一言で潰さないでいたい。一方で、安全でスムーズな運営のためには、ベテランの目が必要だ。また、全ての児童の活躍の場を保証するという目配りについても、経験豊富な先生の配慮はさすがだった。

「校長先生はテントの本部席に『いる』ことが大事なんです! ウロウロしないでください!」と教頭先生にくぎを刺され、撮影や応援で動き回りたい気持ちを堪えつつジリジリと日に焼け続けた運動会の1日。来賓の方に挨拶をし、地域の方に挨拶をし、かつての校長先生方に最近の学校の様子を説明する。挨拶と説明がメインの仕事だった。

出場は綱引きと玉入れと大玉転がしに参加し、児童からの「校長先生がんばれー」の黄色い声にはうれしくなった。とにかく暑い、そして熱い一日だった。

最後、職員室で一言求められ、すべての教職員の臨機応変さに感謝と、子どもたちのがんばりに感動したことを率直に伝えた。いつもは遅刻気味な子どもたちが、朝早く来たその時から、実は私の涙腺は緩んでいた。「家の人に、ええとこ見せたい!」その思いに、どこまで応えてやれただろうか。

運動会の後、家庭でどんな会話を交わしていたかも、気になる。

足の速い妹と比べられ「お前はいつもドベ(最下位)やから、見にいってもガックリや」と父親が夜、食事しながらボヤいていた記憶しか無いからだ。お願いだから、家庭でも「ええとこ探し」をしてめいっぱい褒めてほしい。学校でも運動会から一週間、いろんな教職員が子どもたちにほめ言葉を掛け続けていた。そして結束を固めて、新たな行事に向かう。イベントを乗り越えるごとに、メンバーが入れ替わった「新生チーム敷津」が強固なチームになっているのも実感している。

2学期は学校行事が目白押しだ、11月は芸術発表会。

小さな学校、大きな家族、チーム敷津でレッツゴー!

山口照美(やまぐちてるみ)
同志社大学卒業後、大手進学塾に就職。3年間の校長経験を経て起業、広報代行やセミナー講師、教育関係を中心に執筆を続ける。大阪市の任期付校長公募に合格、2013年4月より大阪市立敷津小学校の校長に着任。著書に『企画のネタ帳』(阪急コミュニケーションズ)『売れる!コピー力養成講座』(筑摩書房)など。ブログ「民間人校長@教育最前線レポート」(http://edurepo.blog.fc2.com/)も執筆中

(構成 日経BP共働きプロジェクト・日経DUAL編集部)

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