ただ、当時とは売れるジャンルは大きく違いますよね。

永江 2位『樫木式カーヴィーダンスで即やせる!』、5位・6位『体脂肪計タニタの社員食堂』など、今の主流は実用書です。11年はその傾向が顕著でした。トップ10の作品はダイエット本、レシピ本…と、総文字数はかなり少ない(笑)。

片付けで人生を劇的に変えられると提言するノウハウ本。「一気に片づける」「モノ別に片づける」など、二度と散らからない収納術を紹介する

9位『人生がときめく片づけの魔法』は、実用書の応用編ですね。断捨離、整理整とんのノウハウに、サンマーク出版が得意とする「人生がときめく~」と冠をつけた。“ハッピーになる”類の自己啓発の要素を加えたんです。22位『大人の流儀』も一種の実用書、自己啓発書ですよね。17位『超訳 二ーチェの言葉』のような箴(しん)言集も、自分の生き方にすぐに応用しようと実利を求めているのがうかがえます。14位の、ドラッカー『マネジメント』だって、経営学を学ぼうというよりも、松下幸之助のような人生の指南役の存在として読まれているのでしょう。

 3位『心を整える。』をはじめ、18位『日本男児』など、世界で活躍するサッカー選手の著書が元気でした。スポーツ選手本は、ベテランのスター選手や引退した選手が出版するのが一般的でしたが、今は20代で上り調子の若い選手が続々出していますね。

永江 世界でも戦える選手は、古典や偉人の自伝や評伝など、とりわけ本をよく読んでいますよね。2006年前後にイビチャ・オシム監督の著書が多く出版されたあたりから、根性や努力だけでは太刀打ちできないし、一流は頭脳でプレーしていることがスポーツファン以外にも浸透した。そんな認識の変化も、アスリート本が読まれる土壌を作った気がしています。

活況だった「お年寄り本」

 『くじけないで』、11位『老いの才覚』と高齢者の著者による本も目立ちました。

永江 「お年寄り本」はキーワードの1つです。でも、『くじけないで』と『老いの才覚』は作品の立ち位置や、読まれ方はまるで違います。

『くじけないで』は、いわばおばあちゃんの「ツイッター本」です。読者からも100歳のおばあちゃんに対して、「よくがんばって生きてくださいましたね」といった敬いの気持ちが込められています。

『神の汚れた手』などで知られる、80歳の作家による新書。超高齢化社会を迎える日本において、老いる才覚を持った自立した老人になる重要性を説く

一方、『老いの才覚』で曽野綾子さんは、「長生きすればいいってもんじゃない」と後期高齢者へ厳しく提言しています。曽野さんの説く、「いかに周囲に迷惑をかけずに人生をまっとうするか」といった後期高齢者に自立の大切さを促す視線は、老いへの意識を大きく変えました。トップ30には入りませんでしたが、注目を集めた『老前整理』(徳間書店)も同じ考え方。「遺産整理」ではなく、亡くなる直前の「生前整理」でもなく、体力的に無理がくる70歳ぐらいまでに身の回りを整理しようという。

19位『官僚の責任』、26位『日本中枢の崩壊』と2作ランクインした、経済産業省で30年のキャリアを持つ元官僚・古賀茂明さんも2011年を象徴した存在です。政治と真摯(しんし)に向き合い、体制に反旗をひるがえす姿が、政権への信頼を失っていた読者からヒーロー視されました。大きな敵に立ち向かおうとする点では、官僚体質の大手企業の横暴に、町工場が独自の技術を武器に闘う30位『下町ロケット』も同じ構造です。

逆に、店じまいの様相を呈しているのはブランドムックですね。10年の5冊に対し、11年は15位『ANNA SUI~』だけ。宝島社は電子書籍には参入しないと宣言していますが、次は何を仕掛けてくるんでしょうかね。