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卵子提供に体外受精、不妊治療はここまで進んだ

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日経トレンディネット
医療技術の進歩のおかげで、不妊と診断されても出産のチャンスを持てるようになりました。では不妊と診断された場合、実際の治療はどのように進むのでしょうか? 米国ボストン在住の医学博士 大西睦子氏と、名古屋大学産婦人科の大須賀智子先生が不妊治療の現状と課題を語り合いました。

「不妊治療」の第一歩は自宅でできる記録

大西睦子(以下、大西): 検査から治療まで、不妊治療では具体的にどのようなことをするのでしょう。

大須賀智子先生(以下、大須賀): 不妊症は、原因に応じた治療をする必要がありますから、その原因を調べる検査を最初に行います。自宅で記録できる基礎体温の記録も大切な検査の一つです。

女性の場合は、診察室で内診や経腟超音波検査により子宮・卵巣の状況をチェックします。採血して、ホルモン値なども検査します。これは、必要に応じて何回か繰り返すことが多いです。また卵管の通りや子宮内の形状を見るため、子宮卵管造影といった、X線撮影検査もあります。場合によっては、子宮鏡検査、腹腔鏡検査、MRI検査などが加わることもあります。

一方、男性の基本的な検査は、精液検査です。ほかにも必要に応じて、泌尿器科での診察、採血などを実施します。

約20年で50万人ほどの赤ちゃんが、体外受精で誕生した米国

大西: 米生殖医学会(American Society for Reproductive Medicine:ASRM)によると、米国では不妊治療を受ける人の85~90%が、薬や外科的処置などを受けているといいます。この治療に含まれるのが、カウンセリングから内診・基礎体温の測定・精液検査、性交のタイミング指導、薬剤や注射による排卵促進、人工授精までといいます[注1]

こうした「一般不妊治療」に対し、「高度不妊治療」、つまり体外受精に取り組む人もいます。

体外受精は、1978年に英国で世界初の体外受精技術による子どもが誕生し、米国では1981年に導入されました。以降、米国内のすべての不妊治療の5%未満ほどが体外受精となり、1985年から2006年末までで、約50万人もの赤ちゃんが、体外受精など生殖補助医療によって生まれています。

体外受精は、例えば、女性の卵管が閉塞している場合や男性の精子の数が少ないなどの理由のため不妊のカップルに行われる治療です。まず女性の卵子を卵巣から取り出し、数千(米生殖医学会参照。ただし日本では10万~15万とされる)の健常な精子と培養皿に置く。培養皿のなかで精子の1つが卵子にたどり着き受精すると、その約40時間後に卵子が細胞分裂を始めます。その後、受精卵になっていることを確認して、受精卵を子宮に戻します。この体外受精には高度な訓練を受けた専門家をはじめ、実験室や医療器具を必要とするため、米国での1サイクル(1回の治療)の平均費用は、1万2400ドル(約120万円)と高価です。

しかも、成功するまで、このサイクルを繰り返す必要があるわけです。

[注1]参考文献:American Society for Reproductive Medicine「Frequently Asked Questions About Infertility」

不妊の治療や診断に対する保険の適応は、米国は州によって異なりますが、日本の現状はいかがでしょうか。

大須賀: 最初に行われる不妊の原因検索の検査や、卵胞発育のチェック、一般不妊治療における排卵誘発は、保険診療の範囲で実施されることが多いです。精子を子宮内に入れる人工授精の場合は自費診療となり、施設によりますが、1回につき1万~2万円程度が一般的です。

一方、体外受精などの生殖補助医療はすべて自費診療となります。これも施設によりますが、排卵誘発から採卵、体外受精、受精卵の凍結または胚移植の一連の流れで、おおよそ40万~60万円程度のようです。自治体によっては、助成金を設けているところもあります。支給される金額も自治体によってまちまちです。最初にいくらか払い、妊娠が成立したら残額を払うようなシステムの施設もあります。

体外受精にも2種類ある

大西: 体外受精の長所は、不妊に悩むカップルに希望を与えることに加えて、複数の受精卵を採取した場合、余剰胚を将来使うために凍結保存できることですよね。

人工授精の場合、排卵誘発によって2~3個排卵されることにより、多胎妊娠(2人以上の胎児が同時に子宮内に存在する状態)になることがあります。多胎妊娠は早産などの合併症のリスクが単胎妊娠に比べ起きやすいとされています。現在、体外受精で母体に戻す受精卵は原則1個なので、多胎妊娠の可能性は減ったようです。

ただし、短所として高額であること、成功率が100%ではないことなどが挙げられるでしょう。

成功率は各病院によって異なりますが、米妊娠協会(American Pregnancy Association)は、35歳未満の女性の成功率は30~35%程度と報告しています。また、体外受精の手法も進化しています。十分に正常な機能を持つ精子がない場合には、顕微授精(卵細胞質内精子注入法=ICSI、イクシー)と呼ばれる方法で、顕微鏡で観察しつつ、卵子に精子を直接針で注入する体外受精があります。

体外受精の成功率もさることながら、不妊治療での出産は高リスクになるのでしょうか。

大須賀: 2012年に、オーストラリアの研究チームにより、不妊治療と生まれた子どもの障害についてのリスク比を解析した論文が、医学雑誌「The New England Journal of Medicine」で発表されています。

この論文では、一般不妊治療から生殖補助医療までを含めて、不妊治療で妊娠・出産した場合、子どもに障害が発生するリスクは、自然妊娠に比して1.28倍であったと報告しています。この場合の障害は、先天性の異常から、早産や分娩に関連して脳性麻痺になったケースなどを含みます。一方、卵子に精子を振りかけて受精させる方法の体外受精のみで比較すると、自然妊娠に比べて、障害のあるリスク比は1.07倍としており、ほとんど差がありませんでしたが、ICSIですと1.57倍と上昇しました[注2]

[注2]参考文献:The New England Journal of Medicine「Reproductive Technologies and the Risk of Birth Defects」

日本でも「卵子提供」による出産が3倍に増加中

大西: ICSIでも受精できない場合、おそらく、卵や精子のいずれかに問題があることが考えられます。これらの場合、精子ドナーまたはドナーエッグで受精を試みるようになっています。ドナーエッグは、ほかの女性から提供を受けた卵子と夫の精子を用いて体外受精を試み、提供を受けた女性の子宮に移植します。

米国ではこうしたケースが増えていますが、日本でのドナーエッグの状況はいかがでしょうか?

大須賀: ドナーエッグは日本語では「卵子提供」といいますが、日本では、日本生殖補助医療標準化機関(JISART)という団体が、卵子提供を始めています。2007年からの合計で42件実施しているようですね。そのほか、JISARTによれば海外で卵子提供を受ける人も近年増加しています。

2013年6月に、2012年の卵子提供による出産の割合が、その3年前の約3倍だったことが、厚生労働省研究班(主任研究者・吉村泰典慶応大教授)の調査で明らかになり話題になりました。その半年ほど前にNHKの番組で卵子提供が増えている、しかも海外で提供を受ける人が多いことなどが放送され、ずいぶん注目を集めたように思います。ただ現在も、高齢での出産リスクに対する注意喚起や、卵子提供のルール作りを求める議論は続いている状況です。

実際に卵子提供を受ける人は、40歳以上であることが多く、高齢妊娠による産科的リスクが増加するわけです。特に、妊娠高血圧症のリスクが、自身の卵子を使用した場合に比べると高いとの報告が見られます。

大西: 米妊娠協会によると、米国では、女性なら誰でもドナーエッグの利用が可能です。利用者のうち、早期閉経または早期卵巣不全、卵子の質的問題、遺伝性疾患の既往、卵巣が刺激に反応しない、ホルモンのバランスの問題がある、40歳以上などの女性が多いそうです。

大須賀: 「誰でも利用可能」だからこそ、米国に渡って卵子提供を受ける日本人女性も増えているということでしょうし、米国以外でも外国の会社から日本人の卵子提供を受ける(購入する)人が多いのでしょう。現在日本のウェブ上には、日本人の若い女性のドナーを募集する広告などもたくさんあります。米国では、米生殖医学会のガイドラインでも、40歳以上にはドナーエッグを勧めていますが、日本ではまだ推奨されるレベルには達していません。

卵子提供を受けて出産した女性の9割は、ドナーの身元を知らない

大西: なるほど。とはいえドナーを見つけられたとしても、その成功率は、ドナーの年齢、卵子の採取法、女性の健康状態などに応じて、大きく異なるという事実に変わりはありません。ドナーエッグを使用した女性の48%までが妊娠を経験しますが、残念ながら15~20%が流産しています[注3]

米国ではドナーエッグになる女性に対し、身体的検査や年齢などの評価だけでなく、精神的な評価を重視しています。というのも、ドナーエッグを利用して出産した女性が、合法的な母親になることなどを受け止めなければならないからです。

現在、米国では、身元を知っているドナーと知らないドナーのどちらが好ましいかが大きな議論となっています。実際、ドナーエッグを利用して出産した女性の90%は、ドナーの身元を知りません[注4]

ほどんどの会社は、ドナーの身元を秘密にし、将来お互いの女性が出会わないよう配慮しています。ところが、遺伝子背景の知らない卵子を使うことは、子どもの発育、病気など予期しない問題が生じるリスクが生じます。いくつかのプログラムでは、子どもがある年齢に達するとドナーから連絡することが許可されていたり、ドナーと法的な母親が会うことや連絡を取ることが許可されています[注5]

ただし、身元を知っているドナーと知らないドナーのどちらの場合でも、子どもが母親と生物学的なつながりがないことを知ったときに、精神的な問題が生じる可能性があります。

ドナーエッグに関しては、米国でも賛否両論があるのが実情ですね。

卵巣を一度体外に出し、活性化させてから体内に戻す研究も

大須賀: 卵子提供などについて、日本の法整備は遅れており、現在国会でも討論されている段階です。法律が旧態依然としていることもありますが、基本的には子の福祉の観点から、「産んだ人が実母」とされます。また「子の知る権利」については、30年前から行われてきた精子提供(AID:非配偶者間人工授精)において、以前から問題になっているだけに、卵子提供はさらに議論になるでしょう。ただ、法整備が遅れることで、今後、個人で精子を提供している「精子提供サイト」のような、新たな問題が発生しないとも言い切れません。

費用については、日本で卵子提供するドナーはボランティアで、卵子提供を受ける側(レシピエント)は実費を支払うようです。海外で提供を受ける場合は、治療と卵子自体の費用など含めて、約200万~500万円以上に加え、渡航費や滞在費がかかってきます。

法律や費用の問題はあるものの、可能性が広がっているのも事実です。例えば排卵誘発剤の進歩など不妊治療が高度化し、患者さんの体にできるだけ負担の少ない採卵が選択されるようになってきました。またがん治療前に妊孕(にんよう)性温存を目的とした卵子凍結・卵巣凍結や、早発卵巣不全(40歳未満に閉経してしまう病態)の患者さんに対する体外での卵巣組織の活性化(卵巣を一度体外に出し、活性化させてから体内に戻す方法)など、研究段階ではありますが学会で話題となっています。

[注3]参考文献:American Pregnancy Association「Donor Eggs」
[注4]参考文献:New York Fertility Services「Types of Egg Donors」
[注5]参考文献:State of New York Department of Health「Becoming An Egg Donor」
大西睦子(おおにし・むつこ)
医学博士。東京女子医科大学卒業後、同血液内科入局。国立がんセンター、東京大学医学部附属病院血液・腫瘍内科にて、造血幹細胞移植の臨床研究に従事。2007年4月より、ボストンのダナ・ファーバー癌研究所に留学し、ライフスタイルや食生活と病気の発生を疫学的に研究。2008年4月より、ハーバード大学にて、食事や遺伝子と病気に関する基礎研究に従事。現在もボストンで研究を続けている。

[日経トレンディネット 2014年5月2日付の記事を基に再構成]

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