サッカー長谷部本が売れる理由品田英雄のヒットのヒント

「長谷部さんってすごい、惚れ直したわ」と話すのは、普段はサッカーなどあまり興味のないアラサー女性。サッカー日本代表長谷部誠選手の『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(幻冬舎)を読んでの素直な感想だ。

今、書店にはサッカー選手の書いた本が数多く並んでいる。田中マルクス闘莉王『大和魂』(幻冬舎)、三浦知良の『やめないよ』(新潮社)、長友佑都の『日本男児』(ポプラ社)、阿部勇樹『泣いた日』(ベストセラーズ)、松井大輔『独破力』(PHP研究所)などなど。

タイミングとターゲットを変えると大ヒット!?

ともに著書がベストセラーになったサッカー日本代表の長友と長谷部(写真 共同)

なかでも長谷部誠の『心を整える。』は90万部を発行し「ミリオン間近」といわれている。なぜここまでの大ヒットになったのかは、タイミングとターゲットから説明できる。

まず「タイミング」。かつてのスポーツ選手の本は、スターだった選手が引退後に出すのが普通だった。それが、今は伸び盛りの若い選手たちが出版するようになっている。長谷部自身が「話が来たときは、まだ若いと思った」と語っているように、選手自身は時期尚早と思っていても、読者からすれば選手が上り調子にあるときこそ読みたいようだ。長友佑都の『日本男児』も世界有数のビッグクラブ・インテルに移籍し存在感を示したタイミングだったため、予約だけで15万部、現在は20万部を超えている。

選手の活躍の記憶が冷めないうちに刊行されたというのも『心を整える。』を魅力的にしている理由だ。W杯直前に岡田武史監督から突然ゲームキャプテンを命ぜられても一度は断ったこと、パラグアイにPK戦の末に破れても泣かずに前を向いていた理由、アジアカップの最中にスポーツ紙が書いた「長谷部が遅刻した森本を注意」の真相など、多くの新事実が固有名詞入りで記されている。これまでならスポーツライターが追いかけていた裏話を、当事者自らが語っているのだから面白いのは当然といえる。書籍でありながらニュースとしての価値が高い。