日本人の平均、最後の7~9年は介護される生活
――川嶋さんは今年3月、『医師が教える幸福な死に方』という本を出されました。なぜ、「幸福な死に方」というテーマを選ばれたのですか。
川嶋 男女の寿命が伸び、長寿社会になっています。長生きする以上、元気でありたいというのがみなさん、共通の願いだと思うんですね。ところが、ただ「生きたい」というだけで、なかなか死について考えなくなってしまっていて、そのために弊害も出ている。死を考えると、逆に死ぬまで元気でありたいとも考える。元気で長寿であることが重要で、それを提案したいと思い、この本を書きました。
――日本人は必ずしも「健康で、長寿」というわけではないのですね。
川嶋 世界保健機関(WHO)が発表した「世界保健統計2012」では、日本人の平均寿命は83歳で193カ国中1位でした。
しかし、一方で、「健康寿命」というものがあります。介護を必要としないで生きていくことができる寿命ですね。平均寿命と、この健康寿命との差が日本では7~9年あると言われています。つまり、7~9年は介護を受けながら生きていくのです。医療や介護によって長寿が維持されているという側面もあるわけですね。
一生で使う医療費、半分は70歳超えてから
――医療費は年々増加しています。
川嶋 国家予算の中で、実は最も大きいのが医療費です。2010年のデータですが、国民医療費は37.5兆円にも上ります。その年の税収が約41兆円。これを一般家庭に置き換えてみると、お給料のほとんどを病院で使っているという計算になります。
我々が一生の間で使う医療費の平均が2300万円と言われているのですが、その半分は70歳を超えてから使っているというデータもあります。高齢者が医療費の大半を使っているので、今後高齢化が進むと25年には医療費が52兆円になってしまうと厚生労働省は試算しています。
国も医療費を減らしていきたいという思いがあるのでしょうが、単純に医療費を減らそうとすると医療の質が落ちます。質を落とすようなことはしたくない。では、どうするか。
医療費を減らすためには、使わないことが一番です。使わないということは病気にならないということです。医療費を減らすということは、医師にとっては商売にならないことを意味するのかもしれませんが、それを目指さないと日本という国を壊すことになってしまう。