アニメ実写化は要注意 ハリウッド映画、残念の法則
日経エンタテインメント!
2013年1月から14年3月に公開された作品を対象に、全国250スクリーン以上で上映された拡大公開作の興行収入ワーストムービーを調べたところ、右の表のような結果となった。
興行的な失敗作で目につくパターンが2つ。『47 RONIN』『ウルヴァリン:SAMURAI』に代表される、ハリウッドが日本を題材にして作った「勝手にジャパンムービー」と、『ガッチャマン』の「アニメの実写化ムービー」だ。
『47RONIN』は日本の忠臣蔵をモチーフにした3D(立体映像)アドベンチャー。キアヌ・リーブスが異端の男にふんし、大石内蔵助らの仇(かたき)討ちを助ける。世界に先駆けて日本で2013年12月6日に公開された。製作費に1億7500万ドル(約180億円)の巨費を投じたものの、世界で上げた興収は1億4800万ドルで製作費を下回った。舞台となった日本でも興収5億円と振るわなかった。
『ウルヴァリン:SAMURAI』はアメコミの人気キャラクター、ウルヴァリンを主役に据えたアクション映画で、彼が日本を訪れピンチに陥る。製作費に1億2000万ドルをかけ、世界の興収は4億1500万ドル。『47RONIN』に比べると世界的に大ヒットしたが、日本では8億円と伸び悩んだ。
ちなみに日本を題材にしたハリウッド映画で、最も成功したのが『ラストサムライ』だ。2003年12月に公開され、渡辺謙がアカデミー助演男優賞にノミネートされた効果もあり、興収137億円の大ヒットとなった。成否の明暗を分けたものは何か。まずは『47RONIN』から比較してみる。
1つは「忠臣蔵が題材だが、ストーリーが異なるうえ、出演者の衣装や城のデザインなどが日本の時代劇とは全く別物だったこと」。『ラストサムライ』でも一部は日本の時代劇のイメージと異なっていたものの、日本人が見ても違和感はなく、「しっかり作った映画」と感じられた。
ところが『47RONIN』は登場人物の名前こそ「オオイシ(大石)」「アサノ(浅野)」「キラ(吉良)」と忠臣蔵と同じで、「主君の仇を討つ」という骨格は同じだったが、ストーリーは全く異なり、謎の女が妖術を使って浅野を陥れる。日本人にとっては忠臣蔵との違いばかりが気になり、典型的な「ハリウッドが勝手に作ったジャパンムービー」と感じられた。
もう1つは「日本人俳優のセリフがすべて英語だったこと」。『ラストサムライ』は渡辺謙のみが英語を話す設定で、他の日本人は日本語を話し、日本人には違和感がなかった。ところが『47RONIN』では真田広之や柴咲コウら出演者すべてが英語を話す。米国をはじめ世界マーケットを狙っていたためセリフを英語にしたが、日本人には違和感が残った。
世界狙いは成功か、日本では大失敗の『ウルヴァリン:SAMURAI』
一方、『ウルヴァリン:SAMURAI』は忍者のような集団がウルヴァリンを襲ったり、彼らの武器が日本刀だったりと「ハリウッドがイメージする昔ながらの日本」で、日本人には荒唐無稽に感じられた。
また忍者軍団を率いる日本人ハラダを演じたのが韓国系米国人俳優ウィル・ユン・リーで、日本語を含めて日本人には見えなかった。映画は全体的に日本人には違和感があって興収は伸び悩んだが、日本以外の観客は気にならなかったようで、世界的には大ヒットした。
2014年7月25日には米国映画の『GODZILLA ゴジラ』が日本で公開される。1998年のハリウッド版ゴジラは、オリジナル版とは異なり爬虫(はちゅう)類のような体形に変わり、日本人の観客には不評で動員数が伸び悩んだ。今作はオリジナル版を踏襲した体形に変わっている。生誕60周年記念作でもあり、日本の観客にも受け入れられることを祈るばかりだ。
実写版『ガッチャマン』と『ヤッターマン』との違い
もう1つの興行的失敗作のパターン、「アニメの実写化ムービー」である『ガッチャマン』は興収5億円。同じタツノコプロのアニメを実写化した『ヤッターマン』は2009年3月に公開され、31億4000万円の大ヒットを記録した。成否の明暗を分けたものは何か。
『ヤッターマン』はオリジナルの持つコミカルさをうまくストーリーに取り入れて映画化し、家族客を中心に集客した。悪役のドロンジョ、ボヤッキー、トンズラーには外見の雰囲気が似ている深田恭子、生瀬勝久、ケンドーコバヤシを起用。特殊メイクや衣装もオリジナルのキャラクターに似せていた。犬型巨大ロボットのヤッターワンなどのメカをCGで再現し、オリジナルを知るファンの反応も良かった。
一方『ガッチャマン』はオリジナルからの設定を変えたことがファンには不評だった。地球に攻めてきた侵略者に対抗するため、「石」と呼ばれる不思議な結晶体の力を引き出せる「適合者」がガッチャマンとなって戦うという設定だ。
ガッチャマンのキャスティングも不評で、紅一点のジュンは「オリジナルのコスチュームのピンクが紫に変わったり、演じた剛力彩芽はCMのイメージが強くジュンに見えない」、竜は「オリジナルでは肥満系なのに、『変態仮面/HK』で肉体美を披露した鈴木亮平が演じてイメージに合わない」という理由だ。またガッチャマンたちが空中戦を繰り広げたり、敵の巨大兵器が回転しながら東京の中心部を破壊する様子を描くCGの完成度がいまひとつ。これも不評の要因だった。
「オリジナルの設定を変える」のは「アニメの実写ムービーの鬼門」といえる。その代表例が『ドラゴンボール』をハリウッドで実写化した『DRAGONBALL EVOLUTION』だ。孫悟空を高校生にしたり、ピッコロ大魔王に触覚がなかったり、人気キャラクターのクリリンが出てこない設定に変えたことが不評となって、興収9億円程度と伸び悩んだ。
2014年8月にはアニメの実写ムービー『ルパン三世』が公開される。登場人物の設定はオリジナルに忠実のようで、原作者のモンキー・パンチは実写化に好意的といわれている。過去のジンクスを覆す傑作となることを期待したい。
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(日経エンタテインメント!編集部)
[日経エンタテインメント! 2014年6月号の記事を基に再構成]
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