「ドクターX」が12年の民放連ドラ1位 内山聖子氏
ヒットメーカー 2012~13(2)
日経エンタテインメント!
「私、失敗しませんから」の決めゼリフと、勧善懲悪の手法でファンを増やした「ドクターX ~外科医・大門未知子~」。初回の平均視聴率で18.6%を取り、最終回では24.4%(瞬間最高で29.8%)を記録。同局の看板ドラマ「相棒」をも上回る数字をたたき出し、2012年のプライム帯(19時~23時)で開局以来初の1位を獲得したテレビ朝日の好調を後押しした作品といえる。
このドラマを手がけたのは、テレビ朝日の内山聖子ゼネラルプロデューサー。2004年の「黒革の手帖」以来、決して万人には好かれない、強いタイプの女性を主人公にするドラマで米倉涼子とタッグを組んできた。同局は、「土曜ワイド劇場」や刑事ものを好んで見るアダルト層に支持されてきたが、それ以外の人たちにも訴求できるテーマで新たなヒットを生んだ。
内山 米倉さんとは、ほぼ1年に1回のペースでドラマでご一緒しているんですが、毎回新しい挑戦を求める人なんですよ。それで今回、米倉さんがまだやったことのない設定ということで、医者かなと。でもこれまでは、したたかに世渡りをする悪女や、クセのある嫌われ者の役をあててきたのに、人の命を救う正義の味方を彼女がやって面白いのか、すごく悩みました。そんなときに新聞で、「フリーランスの医者が増えている」という記事を読んだんです。例えば、名医紹介所というところから、職人のような医者が腕1本で"白い巨塔=組織"の中に入っていく、その構図だったら、米倉さんが生きる主人公が描けるかもと、そのとき思ったんです。
医療ものを手がけるのは初めてで、大変でした。まず私が、「停電したなかで手術はできる?」というようなテーマを投げかけると、制作会社のプロデューサー3人が、2週間ぐらいでありとあらゆる症例と術式を持ってくるんです。そのアイデアを医療監修の先生に直していただき、そこに脚本家の中園ミホさんがキャラクターを投下させて、最後に監督が絵として面白いのかを判断するという流れ。チームの半端じゃない取材力に助けられました。
優れた医療ドラマはこれまでにもたくさんある。内山氏はそのあたりも自覚しつつ、「医療がテーマではあるけれども、会社員の方も、主婦の方も共感できるドラマにしたい」と意識した。
内山 私もテレビ朝日の社員ですし、上司と部下だとか、規律やいろいろな人間関係のなかで仕事をしていて、ストレスを感じるときもあります(笑)。なので、院長や事務長にこびて、いちいち"御意"と答える"御意三兄弟"を作ろうとか、いらだつ未知子にはわざと丁寧に「いたしません」と言わせようとか、サラリーマンでも何となく実感できることを当てはめていきました。もし、勝因を挙げるとしたら、痛快だったんでしょうね。閉塞感が強い時代に求められていた要素だったんだと思います。
米倉涼子の初対面の印象
内山と米倉が出会ったのは2004年のこと。ことあるごとに「私にやらせてほしい」とアピールしてきた、松本清張作品をやれるチャンスが巡ってきたとき、米倉を主演に連続ドラマを制作する話と重なった。これ以降、二人の信頼関係が続くことになるが、最初の印象を聞くと、「冗談ですよ」と前置きをしたうえで、「最悪だった」と笑って振り返る。
内山 初めて会ったときに、「あー、女のプロデューサーなんだ」っておっしゃったんです。私より10歳も年下ですよ。「私、女性のスタッフ苦手なんですよね」って。その瞬間、「何だとこのやろう」って思った(爆笑)。ただ、風邪をひいてスッピンで来た彼女が、ものすごくきれいだったんですよ。生意気だと思う以上に、あんなにきれいな顔でいきなり私に「苦手だ」と言うあたりに興味がわいて、「間違いなくこの悪女は面白くなる」と感じました。それに、これはとらえ方次第ですが、本音で話せるし、面倒くさくないなって。連ドラって、制作過程で心身を消耗していく大変な作業なんですけど、だからこそチームが大切で、特に主演とプロデューサーの関係が重要なんです。「同じ船に乗ったら楽しそう」と思える出会いをさせてもらいました。
連ドラで7本、単発を入れると10本以上の作品で米倉が主演を務め、それが軒並み当たった。今でこそヒットメーカーとして知られる内山だが、駆け出しの頃は苦い経験もあった。
内山 ドラマ制作の部署に配属されたあと、2年ぐらいでいきなり連ドラの枠を任されて、ひどい視聴率を取って打ち切りになったんです。それでAP(アシスタント・プロデューサー)に降格になり…。落ち込みましたけど、そこから1年間、先輩に付いて学び、次にチャンスをいただいたのが「イタズラなKiss」。だんだん視聴者との目線が合ってきて、「ガラスの仮面」で少し手応えを感じました。
転機となったのは、2000年に放送した「つぐみへ…~小さな命を忘れない~」だ。ちょうど、光市の母子殺害事件のあった時期で、そのニュースを毎日目にしているうちに、「人の感情に乗ったドラマを作ろう」と強く思った。
内山 きれいごとばかりのドラマを作っているという不満がどこかにあったんでしょうね。ドラマは、"実生活を生きている人の心の中継"だと思っているんですけど、何かを忘れている気がして。「つぐみへ…」は、不幸な事件で子どもを失う両親の物語で、あまりの暗さに編成や営業の部署に反対されたんですけど、「これはやらなきゃいけないんだ」って押し切った企画なんです。結果的にうれしい反響がいただけて、ドラマを作っててよかったと思いました。以降、自分の中で実感を持てる主人公しか作っていません。それが私の武器になっているのだと思います。
(ライター 内藤悦子)
[日経エンタテインメント!2013年4月号の記事を基に再構成]
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