バガボンド井上雄彦が魅せられた 式年遷宮棟梁の手伊勢神宮へ墨絵を奉納

「丸柱でも、職人によって鉋がうまく当ててないと、ここは膨れてここは凹んどる、というように触ると一遍にわかります」と宮間棟梁

井上 神様に奉仕する仕事に変わりはなくても、20歳のときと、40歳、60歳のとき、それぞれご自身の心持ちというか、臨み方が違うと思うんです。僕が20歳のときだったら、わけがわからなくて無礼なこといっぱいしてるんじゃないかと。それと、仕事をされた後、自分のなかの何かが変わるんじゃないかと思うのですが。いかがですか? 

宮間 先輩がみなお湯へ入ってから仕事を始めるんですが、20歳のころ神宮へ来たばかりは、自分らは若いから寝坊してお湯に入る時間がなくなって、ドボッと雀の水浴びみたいなかたちでしますやろ。朝礼のときまで間に合わすのにギリギリやったですけどね。だけどそれが段々と御殿つくって、神宮に勤めていると、神さんという有り難さとか、尊さというのが、1回目の遷宮より2回目の遷宮はあって。3回目の遷宮だと、神さんの御加護でこういうように無事に仕事させてもらうんだ、というような感謝の気持ちになってくるわけですね。だから、最後には本当に有り難いという崇敬心がわいてきますね。

井上 みなさんそうなんですね。

「神さんの住まわれる御殿」をつくる

井上 3回の遷宮それぞれに、当然任される役割は違うわけですね。

宮間 20歳のときは、いきなりで仕事も全然分からんし、前回経験した先輩や棟梁の仕事をまねて、道具も揃えにゃいかんし。技術を獲得するのと、道具を揃えるので一生懸命で、それだけで遷宮終わっちゃったんですね。

井上 この世界に入られてすぐの頃ですか?

宮間 町で4年間修行しましたんで、鑿(のみ)や鉋(かんな)はそのまま使いますもんでいいんですけど、やっぱり神宮の造営には特殊な道具が要りますし。

井上 どう違うんですか?

宮間 柱が御殿によっていろいろ径が違いますもんで、丸鉋も、それに合ったやつをつくらなあかん。それに、神宮の場合は鑿だけで掘ったんじゃなくして、臍の穴まできれいに鉋で削りますよね。鋸(のこぎり)で引きっ放したところを、削ってきれいにするために際鉋とか。だから、自然に道具の数が増えてきますけれどね。

藤森 それは、道具屋さんに注文するんですか?

宮間 ええ、今はそういうような注文でちゃんと誂えますけれど、わたしらが初めてやったときは終戦まもなくだから、鉋の鉄の刃だけ買ってきて自分で鉋台を掘って、昼休みとか休憩時間なんかも、また日曜なんかも家に持っていってつくったりしてました。

井上 丁寧に仕事をする必要があるんですね。

宮間 町やったら見えないところはあまり手をかけないですけれど、神宮はそうはいかない。見えないところまできれいに手をかけますやろ。だから神宮の仕事は、最初、「人間が住まうところやないし、神さんの住まわれる御殿をつくるんだ」という心構えが要るんです。まず最初に仕事をする前にその気持ちを植え付けるというか、「その気持ちになってもらわなきゃいかん」というようなことを言われますね。