さらば「あまちゃん」、大ヒット支えた俳優と音楽
日経エンタテインメント!
PART1:『あまちゃん』出演俳優ブレイク度通信簿
『あまちゃん』では主演の能年玲奈を含めて、多くの若手出演者が脚光を浴びた。朝ドラでのブレイク度と将来性展望をもとに、独自に5段階評価で通信簿を付けてみた。
過去にも『カーネーション』の綾野剛、『梅ちゃん先生』の松坂桃李ら、朝ドラのヒロイン以外の出演俳優が脚光を浴びた例はあるが、今回ほど多くの出演俳優がオンエア中から注目を集めるのは珍しい。ユニークなキャラクターを作り上げる宮藤官九郎の脚本に加え、精鋭の若手を起用した好キャスティングの結果といえる。
当然、能年玲奈の注目度は高く、秋以降は民放ドラマでのし烈な争奪戦が予想される。親友役の橋本愛も、従来は映画中心の出演だったこともあり、知名度を伸ばした。
NHKドラマという性格上、「ヒロインを演じる女優は朝ドラ放映中は新規CM契約ができないが、そのほかの俳優は可能」(プロダクション関係者)なことから、出演CMが増えた出演者もいる。なかでも有村架純は、今年8月以降に「伊藤園」「フロム・エー」「Mellsavon」の新CMに登場して、注目度がうなぎのぼりだ。
GMTメンバー、「ミズタク」にも注目が集まる
GMTメンバー役の女優では、松岡茉優が「web R25」に取り上げられ、当日のヤフー!急上昇ワードピックアップ1位に。ホリプロタレントスカウトキャラバングランプリ出身の優希美青も今後の活躍が期待されている。
マネジャー役の松田龍平も女性層に支持され、制作サイドが意図しなかった意外な人気の盛り上がりを見せ、ネット上では、水口琢磨のシーンに盛り上がる「ミズタクまつり」なる用語も生まれた。
PART2:音楽劇としての『あまちゃん』の魅力
能年玲奈や小泉今日子が歌ったり、アイドルグループが登場するだけではなく、登場人物の鼻歌や一瞬のBGMに至るまで、『あまちゃん』は全編音楽の魅力にあふれている。
北三陸を捨て上京する気満々のユイ(橋本愛)を翻意させようと、サブリミナル効果狙いなのか、彼女の背後で反東京ソング・メドレーを鼻歌する副駅長の吉田(荒川良々)。『東京砂漠』→『大都会』→『東京は夜の七時』と順調だったが、なぜか『NO. NEW YORK』でNYに飛び、『東京』→『俺ら東京さ行ぐだ』と、気がつけば上京を応援しているグダグダの展開に――。
このシークエンス、日本一幅広い年齢層を誇るNHKの朝ドラだけに、全曲知っている視聴者はほとんどいなかっただろう。それでも良々の自爆的な虚無感に、老若男女の誰もが失笑したはずだ。それが音楽の力、である。
とにかく『あまちゃん』は、音楽に満ちあふれている。別掲のBGMリストにあるように、登場人物たちは日常的に歌いまくる。時代背景を解説する際には、象徴的な流行歌が必ず流れる。また大友良英による劇伴は、ドレミファソラシドで始まる画期的なオープニングテーマのみならず、枝葉末節にまでこだわった無尽蔵のバリエーションを誇る。
完成度が高いオリジナル曲
そもそも、28年前のヒット歌謡曲『潮騒のメモリー』がこの物語のアイコンなのだから、『あまちゃん』は音楽劇に他ならない。そして音楽との共生が、『あまちゃん』を〈世代を越えたおとぎ話〉にまで昇華させたと言っていい。
まず音楽業界が舞台の映像作品で最も悩ましいのが、オリジナル劇中歌である。その出来いかんで、物語の説得力が一瞬にして壊滅してしまう。しかし『あまちゃん』の3曲は、どれも秀逸だ。
『潮騒のメモリー』は、〈イントロ→変形サビ→Aメロ→Bメロ→サビ〉という当時のアイドル歌謡曲必殺の構成といい、「低気圧」「タクシー」「アルペジオ」「マーメイド」など当時は聞きなれない普通名詞満載の歌詞といい、実に豪華な80年代仕様である。
一方、最新アイドルグループ・アメ女の代表曲『暦の上ではディセンバー』は、深みを排除したインパクト最優先のサウンドメイクが、鋭すぎておかしい。現代の量産型アイドル歌謡のプロトタイプ、と称賛したい名曲だ。
そしてGMT5の『地元に帰ろう』は、「こんな素人同然のアイドルと地味な楽曲だろうと、売り方次第でなんとかなる」的な、現代アイドル商法のサンプルとしか思えない実験感がたまらない。もしくは、新時代の〈虚脱エンタテインメント・ソング〉か?
注目したいのは、どの楽曲も単に完成度が高いだけでなく、物語の様々な背景や伏線を踏まえて成立している点だったりする。劇中歌でさえそうなのだから、ドラマの随所で登場人物が歌い、懐かしい楽曲や気の利いた劇伴が流れるのにもまた、必然性があるのだ。
地方ならではの音楽への憧れ
ヒロインの母・天野春子(小泉今日子)の思春期は、松田聖子や田原俊彦などアイドル全盛の80年代初頭。ニューミュージックや演歌も健在で、まさに流行歌が文化の中心だった時代だ。テレビやラジオからは音楽が常に流れ、アイドル主演の映画やドラマはことごとく歓迎された。レンタルレコード店の普及も外せない。
そしてテクノやらDCブランドなど東京の最新流行事情を、遠く離れた地方に届けたのも、音楽だったりする。当時の音楽がその曲調に関係なくやたらキラキラ聴こえたのは、地方から見える東京のキラキラ感、もっと言えば東京に対する非常に強い憧れそのものだったに違いない。
そういう意味では、音楽を発信する側の東京の人々よりも地方で受け取る人々の方が、音楽に対する愛着は強くて濃かった時代なのだ。そしてそれは歳を重ねても、薄らぎはしない。こじつけかもしれないが、『あまちゃん』においても、北三陸編では登場人物の誰もが事あるごとに歌を口ずさむのに、東京編のキャラが仕事以外で歌う場面が一切描かれていないのもうなずけよう。
とはいえ地方も東京も日本中が元気だったあの時代を、視聴者みんなが思い出す共通言語としての音楽で、『あまちゃん』はいっぱいなのだ。
(ライター 高倉文紀/市川哲史、日経エンタテインメント! 高宮哲)
[日経エンタテインメント!2013年10月号の記事を基に再構成]
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