9月初め、湯沢神社の秋祭りに合わせ、また長野県野沢温泉村を訪ねた。残暑は厳しいものの、北信濃の空はもう秋色だ。祭りの日の朝、町内の人に交じってしめ縄張りを手伝う。
夜の花火見物は、居候先の民宿「白樺」の食堂が特等席で、常連客が多い。私は花火プログラムの奉納者リストとコップ酒を手に、寸評を加えながら案内した。花火ガイドも私の“担当”である。
秋祭りの夜、見知った顔とコップ酒をグビリ
花火が終わって、灯籠行列がねり歩く大湯通りへ。見知った顔に会うたびに酒量が増える。そこでスケッチブックを手にした水彩画家の筑井孝子さんに遇(あ)った。前橋市出身ながら、好んで野沢温泉の風景や人を描いている。祭りの賑(にぎ)わいを即興で描いた絵を一枚いただいた。
祭りや寄り合いに、この村では祝い酒が欠かせない。1升瓶を傾け、茶碗やコップでぐい呑(の)みするのがスタイルだ。6軒ある村の酒屋には「水尾」「北光」「志賀泉」といった地酒が並ぶ。灘や伏見の全国ブランドの酒はない。普段は飯山の安売り店で買っても、祝い酒は地元の酒屋で買うのが村の“掟”でもある。
一年中でいちばん日本酒を消費するのは、1月15日の道祖神祭りのときだろう。この村にお世話になっている私もお神酒2本を奉納し、「白樺」わきの駐車場で振る舞い酒のお手伝いをした。社殿が建つ火祭りの会場の近くで人通りが多く、1升瓶17本が空になるのに1時間とかからなかった。
雪乞い神事の失態を思い出す
観光客やスキー客への振る舞い酒は、豪快さがうりものの野沢の風物詩でもある。ただ、刺すような寒気と火祭りの興奮が作用しあって、冷や酒が水のように入っていく。やがて足腰が立たなくなり、そのあとは激しい嘔吐、というのがお決まりのコースだ。
祭りの夜、ある名家の中年夫妻が前後不覚になって「白樺」に担ぎ込まれた。また、御神木の里曳(ひ)きを取材にきた東京のテレビ局の若いクルーも廊下でダウンしている。そうした酔いつぶれた姿に、2年前、雪乞い神事の酒を飲みすぎ、スナックの階段から落ちた自身の不始末と重ね合わせた。
その夜の夫妻には余話がある。私の居候部屋の隣部屋で、2人はしばらく休んでいた。酔いがさめた奥さんは一足先に宿の旅館に帰ったようだ。一方、残された旦那はというと、明け方に目が覚め「ここはどこ状態」だったに違いない。私の部屋をノックして「私の妻はいませんか」と聞いてきたのであった。