
仕事や運動を頑張って、そろそろお腹が空いたな、というとき「あ~ガソリンが切れた」なんて言うことがあると思う。これは、人間の体を車に例えているわけだけれど、体のエネルギー収支を考えるとき、とてもわかりやすい表現だ。食べ物がガソリンで、筋肉や脳がエンジン。体を動かすにはガソリンのエネルギーを使う。ガソリンが消費されるとお腹が空く。
もっとも、実際にガソリンを燃焼させる車のエンジンと異なり、筋肉は炎を出して食べ物を燃やすわけにいかない。もっとマイルドにエネルギーを取り出すしくみが必要だ。
「そのしくみの主役が、ミトコンドリアです」と、今月のカラダガイド、東京都健康長寿医療センター研究所の田中雅嗣さんは話す。ミトコンドリアと代謝や寿命の関係を研究する、この分野の第一人者だ。
「電子」の流れで動くミクロのポンプ
「ミトコンドリア」は、細胞の中にあるごくごく小さな袋だ。大きさがおよそ1マイクロメートルほど(1ミリメートルの1000分の1)。人間の細胞はだいたい数十マイクロメートル程度なので、細胞を高性能の顕微鏡で観察すると、その中に点々とシミのように見えるという。
「基本的にすべての細胞に、ミトコンドリアがあります」。平均すると細胞1個中に数百個ほどあるという。「エネルギーをたくさん使う細胞ほどミトコンドリアも多い。拍動を続ける心臓の筋肉細胞は、ミトコンドリアでびっしりですよ」
では、どんなやり方で、“マイルドにエネルギーを取り出す”のだろう。カギを握るのはミトコンドリアの「膜」だという。ミトコンドリアは、2層の薄い膜で包まれている。外側の膜は滑らかだが、内側の膜は複雑に入り組んだ形をしている。「内側の膜に、膜を貫通するように穴の開いたタンパク分子がたくさん埋まっています」。この穴あきタンパクは、水中に溶けたプロトンという小さなイオン粒子を通すことができる。