「クマ本位制」研究室の熱気にタジタジ熟年クマガール雑記

研究生として私を受け入れてくれることになった東京農工大大学院農学研究院の梶光一教授は、野生動物の生態や管理が専門で、エゾシカの研究歴が長い。私が机を置かせてもらった野生動物保護学研究室でもシカやクマなど大型哺乳類の人気が高かったが、他にもアザラシやコウモリ、リス、キビタキ…と研究対象は多彩だった。

おしゃれな学生たちに別の素顔が…

東京農工大のゼミで学生を指導する梶光一教授(東京都府中市)

研究室では大学の4年生や修士課程、博士課程の大学院生らが入り混じって、活発に議論したり、論文の準備に励んだり。通学時間が片道1時間半以上かかった私は、なかなかここを根城にするまでには至らず、今になって、ちょっと付き合いが淡泊すぎたかなと悔やんでいる。

学生の男女比はほぼ半々といったところだろうか。野生の世界に踏み込む若者というと、なんとなく無骨で服装にも無頓着な姿を想像しがちだ。だが、会うたびに髪の毛の色が変わっている男子学生や、美しくつめの手入れをした女子学生など、おしゃれにも結構、気をつかっていた。

とはいえ、そこは森を我が家のように駆け巡ってきた面々だ。洗練された都会風の学生たちも、少し話をすれば、たちまち別の素顔をのぞかせる。動物顔負けの「木登り名人」がいれば、「とぐろを巻いたヘビの、あの小さな目がカワイイ」などと涼しい顔で言ってのける冷血好きも。フィールド研究者たるもの、このタフさ、迫力が欠かせないのかと、軟弱な私は早くもしっぽを巻きそうになった。

研究テーマを模索しながら歩いた大学構内の並木道(東京都府中市)

特に、人跡まれな山奥でクマの暮らしぶりを探るとなると、体力に自信があることは大前提だ。コツコツと長期間、データを取り続ける辛抱強さも欠かせないし、クマとの危険な遭遇をかわすことができる勘や知恵もいる。そしてなにより、クマがオリにかかったとの通報で、飲み会も、映画やコンサートの約束もソデにして調査に駆けつける「クマ本位制」の生活。残念ながら私にはないない尽くしの資質、条件だ。

野外調査に及び腰となると、研究テーマは限られる。2006年には人がクマと出くわす事例が相次いだので、クマの大量出没と地方の過疎化との関係を探ろうとしたが、なかなかいい切り口がみつからない。しだいに焦り出した私は、大学の研究棟への道をトボトボ歩きながら、身の程知らずにもクマ熱に浮かれていた自分を、何度のろったことだろう。

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