問題は、仕事用のデスクだ。デスクこそ、座りっぱなし生活の犯罪多発地帯である。
何か手を打たなくては。1週間前から、僕は立ったまま仕事するスタイルに切り替えた。デスクの上に段ボール箱を三つ重ねて、その上にノートパソコンを置いた。そして、立ったままメールを打つ。ナボコフは立って小説を書いたらしい。僕のメールにも『青白い炎』のような趣が出るといいのだが。
これは割とうまくいった。僕は、ゆらゆら、もぞもぞ、結構動いた。どことなく「嘆きの壁」の前で祈っている正統派ユダヤ教徒みたいだ。もっとも、僕の前にあるのは旧約聖書じゃなくマックブックだが。足元には百科事典を2冊積み上げておいた。足を片方ずつ乗せて休ませると、楽に長く立っていられる。
でも真のブレークスルーはその次にやってきた。僕は、デスクと運動を組み合わせることにしたのだ。(『健康男』より)

「立ち会議」ならぬ「立ち仕事」の態勢を整えたわけだが、それに満足せず、さらなる高みを極めようとするのが、「世界一ヘルシー」を目指す著者の非凡なところだ。考えついたのは、家庭用のトレッドミル(スポーツクラブなどでよく見かける、ゴムの床がぐるぐる回転し、その上を走るように作られた運動器具)の前に木箱を積み重ねてデスクにし、その上にノートパソコンを置くという「自家製トレッドミル・デスク」だった。

専用のトレッドミル・デスクが400ドルで市販されているが、自作も可能だ。僕は後者を選んだ。というのも、僕はすでにトレッドミルを持っているからだ。階下からの苦情によって休眠中になっていたが、トレッドミルの上で歩くのだったら、文句も言われまい。このトレッドミル、なかなかよくできていて、とても静かなのだ。時速1.5キロぐらいの超スローペースで歩くなら問題ないはず。ノートパソコンは木箱の上に乗っけた。長い棒を横にわたしてひじ置きにした。ちなみに、辞書やらキャビネットやらガムテープやらを使った失敗作をいくつも経て、ようやくこの完成形にいたった。
今、そこでこの本を書いている。この章の執筆に要した距離は今のところ2.5キロ。僕はこの本を、トレッドミル上で書かれた世界最初の本にするつもりだ。(『健康男』より)

ジェイコブズ氏は自宅のトレッドミル・デスクで『健康男』を歩きながら書き続け、世界初のトレッドミル上で書かれた本の出版に成功した。その間に歩いた距離はなんと1871キロ(ちなみに東京-沖縄間の距離は1600キロ)。立って執筆したほうが、集中力を持続でき、アイデアも浮かびやすく、しかも夜眠くなりにくい、とメリットもあるようだ。そして何より健康にいい。

それを考えると、10年後くらいにはオフィスからいすがなくなり、やや高めのデスクのみが配置され、そのまた将来は、デスクの下が“動く床”になっているかもしれない。忙しく働き回る人のことを「コマねずみのように働く」と言うが、動く床の上を歩きながら仕事をする様子がねずみのように見えるのが唯一の難点だ。

(日経BP社 沖本健二)

健康男 ~ 体にいいこと、全部試しました!

著者:A.J. ジェイコブズ
出版:日経BP社
価格:1,890円(税込み)

ウェルエイジング 健康で豊かな人生のヒント