「誘拐」された女性が、結婚を受け入れる本当の理由キルギスの誘拐結婚(後編)

【エピソード4】 「報道」でなく「ドキュメンタリー」として伝えたい~ディナラ~

高校教師のアフマット(23歳)に誘拐された、22歳の大学生、ディナラ。アフマットの親族の女性から、花嫁の象徴である純白のスカーフを無理やりかぶせられそうになり、泣き叫びながら抵抗する。しかし5時間後、ディナラは結婚を承諾した

キルギスの誘拐結婚の取材でいちばん難しかったのが、誘拐され、結婚を受け入れた女性の心の葛藤を知ることだった。誘拐の瞬間だけを強調して「報道」することもできるが、それだけに終わらせたくない。一瞬で流れていってしまう「報道」でなく、立ち止まって考えられる「ドキュメンタリー」として、女性たちの心の葛藤を、写真で伝えたかった。

それを可能にしてくれたのが、当時22歳の大学生だったディナラだ。キルギスの取材で、私がいちばん長く、ともに過ごした女性である。

ディナラが誘拐されたのは、2012年10月21日。誘拐したのは、23歳の高校教師アフマットだ。誘拐の10日前、ナルインの市場で出会ったディナラに一目ぼれをし、2回目に会ったときにプロポーズをしたが、やんわり断られていた。アフマットは、誘拐結婚が違法だとわかっていたし、生徒の模範にならなければとためらったが、両親に勧められたこともあり、誘拐を決行した。

アフマットの自宅では大勢の人が待ちかまえていて、家の一室にディナラを連れていき、説得にかかった。花嫁の象徴である純白のスカーフを頭にかぶせられそうになったディナラは抵抗し、スカーフを外す。冒頭の写真はその時、撮影したものだ。前編で紹介した、結婚を拒否したファリーダの状況にそっくりで、私はディナラが結婚を拒否して実家に帰るとばかり思っていた。

しかし、誘拐から5時間余りたった頃、ディナラは結婚を承諾。私は彼女が嫁いだアフマットの家に2週間ほど泊まり込み、結婚式の準備から家庭生活に入っていくまでの過程を取材することにした。

当初ディナラは、人前で疲れた表情や不満を一切出さず、むしろ不自然に笑顔を見せることすらあり、何を考えているのか理解できなかった。結婚式の後に撮ったポートレートには、アフマットと腕を組み、ほほ笑むディナラが写っている。しかし、台所などで独りになると、もの思いにふけっていた。

結婚して3日後、私と二人きりになると突然、ディナラが露和辞典を手に取り、話しかけてきた。「家事が多すぎてもう体がもたない」「アフマットは私のことなんて本当はどうでもいいと思っているはずだ」。

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