――香山さんは「老後がこわい」という本のなかで、「あまり老後について『考えたくない』のではないか、ということに気づいた」と書かれています。これは、多くの人に共通する心情かもしれませんね。

香山 女性でも“美魔女”とか言って、40歳を過ぎても美しい人が話題になりますし、医療のなかでもアンチエイジング医療が盛んです。「いつまでも老いずにいられる」というメッセージが溢(あふ)れていると思うんです。

自分自身を考えても、自分がいくつだとかをあまり意識しなくなりました。年齢から解放されていて、それはいいことだと思うんです。いくつになっても好きなことを楽しめるし、「もう○○歳なのに」とも言われない。でも、医者として、人間を生物学的に見れば、加齢の問題というのは解決できていないわけです。いくら見た目が美しかったり、ちょっとケアをしたりしても、寿命を2倍にできるわけではないですし、残酷な現実として老いは必ずやってきます。

老後いくらあれば安心かは分からない

――香山さんは、若い人こそ、いまから高齢期への備えをしておくべきだとおっしゃっていますね。

香山 はい。そう思うのですが、いまは老後にいくらお金があれば安心して暮らせるのかが分からないし、きちんと考えようと思っても、自然災害もあれば、日本経済もどうなるか分からない。まったく先が読めないから、若い人は考え始めても、途中でふと空しくなるようです。きちっとプランニングするモチベーションが持ちにくいですね。

若いころから老後のことを考えて暮らすというのは難しいと思いますが、自分に老後が訪れるということを1回も考えない人もいると思うんです。いま、おじいさん、おばあさんと同居されている方も少ないですし、高齢者をみる機会もないからでしょう。毎日考えなくてもいいので、自分は70歳になったら、こういうことを楽しんでみたいなとか、いろいろ考えてみるのは悪くないと思います。

――香山さんが、老後は楽しいというロールモデルを提示してほしいと研究会でおっしゃっていたのが印象的でした。

香山 高齢になってからも男女の出会いがあって楽しくなるかもしれません。学生たちに「老後はどうしていると思う?」と聞くと「民謡を聴いてる」なんて言うのですが、若いころに民謡を聴いていないのに何で年をとると聴くのでしょう。私たちの世代の老後は、いまの高齢者とは生活が全く変わると思うんですよ。そのへんをもう少しシミュレーションできるといいのですが。

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「自己責任」だけではやっていけない