60歳定年は現実に合わない
――政府が推進すべき基本的、総合的な高齢社会対策の指針として9月7日に「高齢社会政策大綱」が閣議決定されました。大綱の基本的考え方が香山さんが委員を務めた内閣府の「高齢社会対策の基本的在り方等に関する検討会」でまとめられたのですが、検討会ではどんなことが話し合われたのですか。
香山 この前の大綱が2001年にまとめられました。それから11年たって、「高齢者」と呼ばれる人たちをめぐる状況もいろいろ変わってきたと思います。今や人生90年、100年とも言われ、100歳で現役というような方もいらっしゃいます。寿命が延び、「健康寿命」と呼ばれる元気で活躍できる時間も延びている。そのなかで60歳定年というのは現実に即さない。それから90歳まで30年もあるわけですから。その期間をどう過ごすかが課題になります。
ただ、そこは個人差もあって、100歳で現役の方もいらっしゃれば、早くから健康を害される方もいて、あらゆる人に即した対策というのは難しいのですが、活躍できる人たちにはきちんと仕事や社会参加をしていただきたいという話をしました。
65歳以上の方たちは、これまでは支えられる人、ケアを受ける人という立場の方が多かったのですが、これからはそうではなくて、むしろ支え手にもなってもらう場合があると思います。それは二つ理由があります。一つは65歳以上でも人の役に立ちたい、出番が欲しいという人が多い。支え手になってもらうということが出番を与えることにつながります。もう一つの理由が、これまで日本社会を支えてきた地縁とか血縁、それから勤めていた会社の社縁といったコミュニティーの力がいま、著しく弱まってきていて、そのなかで共助というか、地縁でも血縁でもない人たち同士が支え合う仕組みをつくっていかないと社会全体が立ちいかないということです。
65歳以上の人たちに出番を与えることで心の充実を図ってもらい、さらに仕事として報酬があるような形にもしなければいけない、ということが議論されました。
日本の高齢者、亡くなるときが預貯金ピーク
――生きがいだけではなく、当然、経済的な問題も仕事を続ける動機なのですね。
香山 65歳以上の方で仕事をされている方は経済的に不安というのが理由であるケースが非常に多いです。この場合、「経済的に不安」というのは「いくらあれば安心」なのか良く分かっていません。不安でたくさん貯蓄をして、預貯金の額は右肩上がりに増え、亡くなるときが一番多いというのが日本の高齢者の特徴なんですね。欧米などは人生の中盤あたりが預貯金のピークで、あとは使っていく。日本は必要な時に必要な医療が受けられないのではないかという不安があり、怖くて使えないようです。あるいは子孫に資産を残さなくてはならないと思っているのかもしれませんが、ストックをどんどん貯め込んでしまう。使うようにしていただくためにはどうすればいいかも議論になりました。