ニコニコ動画で高評価、躍進する「動画師」たちの作品力
日経エンタテインメント!
毎日数千件以上の動画がユーザーから投稿され、その総数は運営側でも把握できないという「ニコニコ動画(ニコ動)」。人気の動画は100万回以上再生されることもある。主流はイラストやCGを駆使したもの。ニコ動内で使われている「動画師」という言葉は、実写ではなく、これら「絵もの」の動画制作者を指すことが多い。
ニコニコユーザー文化推進セクションの「あべちゃん」こと阿部大護氏によれば、動画師の活動が活発になったのは2009年ごろからという。初期のニコ動では、ボーカロイドを使ったメジャー音楽作品を投稿したり、聴いたりする目的で使うユーザーが多かった。次第に「絵師」が描いたイラストをバックにした音楽作品が増加。さらに、静止画1枚の画面に飽き足らなくなったユーザーたちが求めたのが、イラストや歌詞テロップを音楽に合わせて動かし、その世界観を作り上げる動画師の存在だった。
音楽から映像、そして動画へという順番で成り立った経緯があるため、動画師は絵師や音楽制作者と組んで作品を作る人がほとんど。「ニコ動の文化は、個人で、趣味で作品を作っていた人たちが集まって作り上げたもの。インターネットというツールを通してコミュニケーションを取り、それぞれの役割を補いながら作品を作っている」(阿部氏、以下同)。
動画師の制作方法は、フリーソフトなどを使ってイラストを動かすタイプと、「MMD(MikuMikuDance)」などのCG制作ソフトを使いキャラクターをポリゴンで動かしてCG化するタイプに大別される。三重の人氏やke‐sanβ氏は前者、cort氏やビームマンP氏は後者だ。
こうした映像作品にも、イラストや音楽のような同人マーケットがある。動画の作り手たちは、同人誌即売会の「コミックマーケット(コミケ)」や、「ボーマス(THE VOC@LOiD M@STER)」と呼ばれるボーカロイド専門の同人イベントでDVDの販売を行う。
また、ニコ動で作品を投稿したことをきっかけにメジャーシーンで起用されたクリエーターもいる。有名なのは、ボーカロイドの初音ミクが登場する作品などでファンを獲得し、現在は映像ディレクターとしてミュージッククリップなどの制作を手がけるわかむらP氏。2月からは、cort氏を中心にニコ動で活躍するクリエーターがMMDを使って制作したテレビアニメ『直球表題ロボットアニメ』がオンエアになる。映像の世界でも、ニコ動は新たな才能を輩出しつつある。
実写動画の作り手も充実
イラストやキャラクターを基にした動画作品に比べると数が少ない印象があるが、実写動画の作り手たちも忘れてはならない。たとえば車から風景を撮影した「車載動画」や、アクターを使ったドラマ風の動画など。こちらも年々クオリティーが上がり、高画質にこだわる傾向が見られるという。
高画質化による変化が分かりやすいのが、「踊ってみた」というカテゴリ。以前は、被写体本人が自宅などに設置したカメラの前で踊った動画が投稿されることがほとんどだった。今は撮影・編集の腕のある制作者が被写体と組み、一眼レフを使って動画を作成する。ロケハンを行い、光や風の向きまで計算して撮影された映像は、アイドルのPVのようだ。
このように投稿動画のクオリティーは向上し続けている。阿部氏は「プロが名前を隠して趣味で投稿していることもあるし、ニコ動からプロになる人もいる。ネットだから質が低いとは言えない。ニコ動はクリエーターの数が多いので、レベルを上げ、際だったことをしなければ埋もれてしまうというし烈な環境。ここ1年ほどでクリエーティブのレベルはだいぶ上がったという実感がある」と話す。
目的はコミュニケーション
ただ、映像を仕事にするクリエーターと大きく違うのはモチベーションだ。ニコ動は2011年末から「クリエイター奨励プログラム」をスタート。人気作品の作り手には換金できる「スコア」がその人気度によって付与されるが、「大半の人は"お金を稼ぎたい"ではなく、"みんなで楽しみたい"という意識」と言う。
また、「クリエーター同士が実際に出会ったことがなくても、ネット上でいいなと思ったら音やイラストを使わせてもらうという自然な流れもある」という話も印象的だ。一つの作品からインスピレーションを受けて自分でも作品を作る、二次創作・三次創作の文化が根付いている。プロ級の腕を持つクリエーターが多数いる半面、みんなで楽しむアマチュアらしさも失われていない。それが、多種多様な作品があふれかえるニコ動の強みなのだろう。
(ライター 小川たまか)
[日経エンタテインメント!2013年3月号の記事を基に再構成]
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