死ぬ前に相続トラブルの芽摘まねば定年男子の終活見聞録

長寿社会では、相続する子が定年を迎えた年金生活者という例も多い。働き盛りと違い、ちょっとした相続額の差が切実な問題になる。相続人の妻が「もらえるものは、もらっておけばいいじゃない」などと、相続権もないのに夫をけしかけたりすると、なおさら譲り合いが難しくなる。亡くなった親の面倒を「見た」「見ない」で、相続割合をめぐって兄弟が感情的に対立することだってある。

家裁の審判・調停は年1万5000件以上

相続の大変さについて講義する佐藤健太郎さん(横浜市保土ケ谷区)

子供がいない家庭も要注意だ。例えば、夫が亡くなると、普通のケースでは、妻だけでなく夫の兄弟も相続人となる。その兄弟も亡くなっている場合が多いから、さらに子供に相続権が移る。妻にとっては義理のおい、めいとの遺産分割となる。疎遠な者同士だからトラブルが生じやすい。「例を挙げれば切りがないほど、ドラマで見るような争いが現実に起こっている」と佐藤さんは言う。

司法統計によると、家裁に持ち込まれる遺産分割、寄与分に関する審判、調停は年間1万5000件以上(2011年)に上る。遺産額別に見ると、5000万円以下が4分の3。1000万円以下のケースが約3割を占める。

節税対策は専門家の助け借りることに

相続トラブルは遺産の多少とは関係なく起こることが、よく分かった。「法的拘束力のある遺言書が一番だが、トラブル緩和のため、せめてエンディングノートなどに本人の考えを書き残しておくべきだ」と佐藤さんは忠告してくれた。

遺産分割とは別に、近い将来、引き上げが予想される相続税の問題もある。基礎控除額の引き下げなどで課税対象の範囲が広がるとあって、最近は生前の節税対策も注目を集めているようだ。節税対策の方は専門家の助けがないと難しそうだが、遺産をめぐるもめごと、苦労の芽を摘んでおくのも、終活の大きな課題に違いない。まだまだこの世とおさらばするわけにはいかない。

(森 均)

森均(もり・ひとし) 1947年京都府生まれ。日本経済新聞の社会部記者、編集委員を長く務める。家庭を顧みない「仕事人間」だったが、定年退職以降は「家庭人」を目指して奮闘中。2012年4~5月には日本経済新聞電子版に「定年男子の料理教室」を連載した。

※「定年世代 奮闘記」では日本経済新聞土曜夕刊の連載「ようこそ定年」(社会面)と連動し、筆者の感想や意見を盛り込んで定年世代の奮闘ぶりを紹介します。

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