石原さとみや武井咲を発掘した仕組みとは
芸能プロダクション研究(2)
日経エンタテインメント!
【プロダクション研究1 ホリプロ】
今年はディズニーとタッグを組んでスカウトキャラバンを活性化
榊原郁恵、井森美幸、山瀬まみから深田恭子、綾瀬はるか、石原さとみまで、多くのスターを生んで、大手プロダクション・ホリプロの新人発掘戦略の中核に位置づけられているのが、「ホリプロタレントスカウトキャラバン(TSC)」だ。
TSCの選考は合議制ではない。少数意見が反映されにくく逸材を見逃すおそれがある合議制の問題点を解決するために、ここのところずっと、毎年一人のマネジャーが実行委員長になり、グランプリの選出を一任する方式を取ってきた。だが、その方法には、会社全体のパワープレーで一気に売り出すのが難しいというデメリットもあった。2000年以降の受賞者を見ると、綾瀬・石原らを除くと、素質を持ちながらまだ大ブレイクにいたっていないケースも多く、6月末に応募を締め切った2012年度のTSC(決選大会:2012年8月29日)は、大きな改革を断行することになった。
2000年に実行委員長をつとめて綾瀬はるかを見出したホリプロのプロダクション一部部長、津嶋敬介氏は「今回は、各セクションの部長10人が実行委員を務めます。選ばれた人には10の売り出す出口を用意し、全社一丸となって、必ずスターにしてみせます。そして結果を出したうえで、来年以降はまた若手に実行委員長を担ってもらうつもりです」と話す。
スーパーアイドルを探すため強力な体制で臨む
2010年は香椎由宇や美波を手がけたチーフマネジャーが実行委員長を務めてモデル系女優を発掘、2011年は声優アーティストオーディションとして開催したように、毎年、募集テーマを設定してきたが、今回はそれをやめて、歌も演技もバラエティーもできる"スーパーアイドル"を探す。
「一つに秀でている人は、なんでもできるというのが僕の考え方なので、今回はいろんなことができるマルチな人材を育てたい。例えば、女優は年齢に合った役をやっていけるので、息の長い活動ができる。加えてCM出演の声がかかりやすく、CMが取れるとイメージが良くなり、仕事が安定します。しかし、演技を中心にやっている人でも、映画や舞台の告知をバラエティー番組でちゃんと面白くしゃべれない人は、重宝されません。石原さとみ、優香なんかはそれができる代表例です」(津嶋氏)。
ディズニー協力でCDデビュー
さらに今回は初の試みとして、ウォルト・ディズニー・ジャパン社とタッグを組むことになり、グランプリ受賞者は「ディズニープリンセス・グローバルテーマソング」の「The Glow(原題)」日本語版でCDデビューする。「応募の初動がいつもの年よりも早く、ディズニーの影響力の大きさを感じます」(津嶋氏)。
ホリプロの新人女優育成にも、ここ数年で変化が表れてきたと津嶋氏は言う。
「昔はレッスンなしに現場に入れて、そこで勉強させていましたが、今はスケジュール的なことも含めて、ドラマなどの現場に、新人を大抜てきして育てる余裕がない。だから、ここ数年は演技や歌、ボイストレーニングなどのレッスンを社内でするようになってきた」
社運をかけてホリプロが挑む今年は、10の出口を用意して、受賞者には歌や演技など各現場でのオン・ザ・ジョブ・トレーニングが待ち構えている。石原さとみがグランプリ受賞直後に映画の現場で鍛えられ育てられたのと近いようだ。はたしてどんなマルチな才能を選び、新世代のスターに育てていくのか注目だ。
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【プロダクション研究2 オスカープロモーション】
武井咲や剛力彩芽など、主演女優を次々と発掘・育成するシステムとは?
武井咲(たけいえみ)、剛力彩芽(ごうりきあやめ)、忽那汐里(くつなしおり)――。昨年来、ドラマやCMで目にする機会が増えたこの3人の10代女優が所属しているプロダクションが「オスカープロモーション」だ。彼女たちの先輩には、後藤久美子をはじめとして、米倉涼子、上戸彩、菊川怜、福田沙紀らがいる。モデル事務所としてスタートしたのが1970年。今では、女優の一大発信源として勢力を拡大している。
同社が有名なのは、主催する「全日本国民的美少女コンテスト」の存在もある。1987年に始まったこのコンテストは、現在は2年に1度開催(2011年は震災のため中止)。「美」をテーマに、毎回グランプリを発表している。
美少女コンテストの役割
実は、オスカーが次々とドラマや映画の主演級女優を育てている背景には、この美少女コンテストが発掘・育成システムとして有効に機能していることがある。
「『国民的美少女コンテスト』は、毎回9万~10万人の応募者があり、その中から将来、女優として芸能界を引っ張って行ける子をグランプリなどで選んでいます。ただ、最終選考に残った21人だけでなく、2次面接に進んだ2000人の中からも将来性がある子を育成枠として500人程度獲得しているんです。剛力彩芽もそのケース。努力した結果、今では看板女優の一人になりました」(鈴木誠司専務、以下同)
同社は、モデル事務所として始まったことから、ファッション誌や広告などのモデルとして経験を積みながら、女優へとステップアップしていける道を作っている。
「モデルをやりながら、CMに出たり、オーディションを受けたりするという経験は大きいんです。やはり人前に立つことが大切。モデルを母体にしているとはいえ、私たちの最終的な目標は女優を育てること。そのため、毎週土日にレッスンを行っています。美少女コンテストの最終選考に残った21人に加え、育成枠の中から有望な子を選んで常時30人ほどで、演技、発声、ウオーキングといった基本的なレッスンを積ませているんです。
私たちはコンテストでグランプリを取ったからといってすぐにはデビューさせません。武井咲だって、パッと出てきたように見えますが、14歳から毎週土日にレッスンを続けてきました。しっかりとした下地ができていないと芸能の世界ではやっていけませんから」
年2回春と秋には、優秀な子を70~80人ほど集めた特別レッスンも行っている。これは、女優として本格的に売り出す子を選定する作業。そこでは役員からマネジャーまで約40人がレッスンを見て採点し、毎回、上位10名を発表している。高いレベルを保つために、下位メンバー30~40人は入れ替えになる。この中で、常にトップ10に入っていなければ女優デビューは難しいという。
「美少女コンテストでグランプリを獲得したというのはここでは関係ないんです。米倉涼子も上戸彩も3年ぐらいはこのレッスンに出ていましたが、ずっとトップ10に入っていました」
近年、K-POPスターや韓流ドラマの役者が、徹底的に訓練されたうえでデビューしていることがクローズアップされたが、オスカーも育成のためにかなりの投資をしていることが分かる。
「当てにいく」のがオスカー流
こうした育成・選考を経て、事務所として売り出すと決めた女の子は、3年計画でバックアップしていくという。
「事務所が一丸となってサポートするので、本人もやる気になって取り組んでくれるんです。よく皆さんに『当たりましたね』と言われるんですが、たまたま当たったわけではない。『当てにいった』結果なんです」
オスカーの女優たちは、厳しいハードルを乗り越え、競争の中で勝ち残ってきたからこそ、毎クールのように主演を務められているといえるだろう。
「私たちも試行錯誤を繰り返して、今のシステムを作りました。米倉や菊川の頃は主演を獲得するまでに3年はかかりましたが、武井、剛力らは1年で主役級を演じられるようになった。本人たちの頑張りはもちろんですが、時間をかけてしっかりとしたシステムを確立できたことが大きいですね」
では、オスカーが次に売り出す女優は誰か。
「美少女コンテストで武井と忽那の同期に当たる宮崎香蓮です。映画『まぼろしの邪馬台国』でご一緒した吉永小百合さんご本人から、"平成の吉永小百合"という言葉をいただいたほど卓越した演技力を持っています。次はこの子に注目してもらいたいですね」
(次回は7月23日掲載)
(日経エンタテインメント! 編集長・吉岡広統、ライター 高倉文紀、田口俊輔)
[日経エンタテインメント!2012年6月号の記事を基に再構成]
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