細胞が「きれいな死に方」を選ぶとき働きもののカラダの仕組み 北村昌陽

「新陳代謝」という言葉をご存じですね。体の構成成分を、新しいものに入れ替える作用です。細胞も新陳代謝します。古い細胞が取り除かれ、新しい細胞が生まれてきます。このとき、“取り除かれる”細胞は、計画的に死ぬ必要があるのです。それが「アポトーシス」です。

今回のテーマは「死」。こういうと何やら不吉な話に聞こえるかもしれないけれど、動物の体の中では、死は実は日常的な出来事。むしろ、死をうまく取り入れることで、全体としての「生」を保っているのが、私たちの体なのだという。

ここでいう「死」は、細胞レベルの現象だ。細胞は生き物の体を作る基本単位で、人間の体は約60兆個の細胞が集まってできている。たいていの細胞は、体の外に取り出して培養液に入れると、そこでしばらく生きている。個々の細胞が、独立した生き物のように、それぞれの命を持っているわけだ。

「でも、長く生きた細胞は老化し、さまざまな異常が蓄積します。そうなると、取り除く必要があるのです」

東京理科大学薬学部教授の田沼靖一さんはこう話す。古い細胞を除去して、全身の「生」を保つ。そんなふうに、細胞が計画的に死んでいくメカニズムが「アポトーシス」だ。

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毎日ステーキ1枚分の細胞が死んでいる