中江有里さんの「無人島に持って行くものリスト」変わりどきは、読書どき(6)

子どもの頃、無人島に行ったら持っていくものリストというのを作ったことがあります。食料、衣類はもちろん、愛用する抱き枕、本、写真、当時携帯電話はありませんでしたが、今なら持ち物リストに入ってきたでしょう。一枚の紙にぎっしり書いたところで「こんな荷物、一人では絶対持ちきれない」と気づきました。

こうした妄想はくだらないけど、実はけっこう深い。自分の深層心理を知ることができるからです。

本当に必要なものは何か。なぜそれが必要なのか。無人島でひとり耐えられるのか。普段考えないことを想像し、自分の心をじっくりと観察するのです。ほかにいきなり大金が入ったら何に使うか? まもなく死んでしまうとしたら? などシチュエーションは様々。

自分を観察するのに、読書は有効です。

山本文緒著『なぎさ』

山本文緒著『なぎさ』(角川書店 1680円)。

著者15年ぶりの新作長編小説は、海辺の町で暮らす夫婦が出てきます。同窓生夫婦のもとへ転がり込んできた妻の妹の誘いで姉妹はカフェを始めることになりますが……。

わたしも二人姉妹の姉で、妹とは仲良くやっています。この小説の姉妹は以前仲違いしていたらしく、物語が進むにつれ、その理由が明かされていきます。姉妹の性格の違いは「あーわかる、こういう感じあるな」と実にリアル。小説は姉、夫の部下、カフェのオーナーの視点から夫婦と妹、周囲の人間が記されていきます。物語を正面からではなく、登場人物たちが少し斜めから人間関係を捉えて描くことで、人の思いがけない姿や本音が浮かび上がってきます。

しかしこの小説のすごさは、違うところにあります。悩みはつきることなく、問題は解決しない日常が続くことを、まっすぐにつきつけてくるところです。

姉はあるものを「荷物」にたとえ、妹に対し、その「荷物」のせいで私達はつながれないかもしれない、と言い、こう続けます。

「でもその重い荷物を一緒に持つのは私だから。それは動かしようがないことだから」

思い出は良いものだけでなく、悪いものもある。生きることは、良い時ばかりを過ごすことではなく、むしろ悪い時をどうやり過ごすかが大切なのではないか。

そんなことを考えていました。

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