貝殻、小麦、マスキングテープ 幸せを呼ぶエコネイル
マーケティングライター 牛窪恵
「ここ1~2年、京都旅行のたびに、『胡粉(ごふん)ネイル』(ネイルカラー)を買って帰ります。消毒用アルコールで落ちるから、除光液が要らないんですよ」
と話すのは、都内の区役所に勤務する、A子さん(30代前半)。
彼女が言う「胡粉ネイル」の"胡粉"とは、ホタテの貝殻の微粉末から作られる顔料のこと。
このネイルを製造・販売する上羽絵惣(京都府京都市)は、1751年に創業された老舗だ。昔から、日本画用絵具専門の店として、プロ仕様の岩絵具(いわえのぐ)などを扱ってきた。
それが近年、絵具の製造技術を応用、有機溶剤を使わない「胡粉ネイル」の開発に着手。A子さんのように爪の弱い女性たちから、「京都のエコなおみやげ」として支持されるようになった。
水溶性のため、従来のマニキュアと違って速乾性があるのも、胡粉ネイルの特徴。落とすのも簡単で、除光液の代わりに消毒用アルコールで落ちるため、「爪へのダメージを減らせる」とのこと。
また、ツーンというネイル特有の刺激臭もないため、「カフェなど外出先で塗っても平気。お気に入りのカラーは、落ち着いた気分になれる、渋めの紫(「紫苑(しおん)」)です」と、A子さんは笑顔を見せる。
一方、数多くのセレブやモデルに愛され、フランスのボン・マルシェ百貨店でも売り上げNO.1を誇るエコなネイルカラーが、「キュアバザー」(フランス製)だ。
キュアバザーは、ブラジル出身のトップモデルらが、小麦やポテトやコーンなど、ネイルには珍しい天然由来成分を85%配合して開発したネイル。ケミカルな石油系成分の使用をできるだけ減らし、人にも地球にも優しいエコネイルを創り上げた。
かつて「月に最低1~2回はネイルサロンに通っていた」という、派遣社員のB子さん(20代半ば)も、このネイルカラーのファンだ。
「20代前半までは、しょっちゅうジェルネイルをやり直しても平気だった。それが2年ぐらい前、20代半ばを過ぎたころから、明らかに爪にダメージを感じるようになってきて」と、B子さん。
そんなとき、あるショッピングセンターに入店するコスメショップ「コスメキッチン」の店頭で、キュアバザーに出会った。
最初に目に留めたのは、鮮やかな発色のネイルカラー。だがネット通販などでリピートするようになると、「サクラ」「フジ」といったパステル&アースカラーのネイルに惹かれるようになった、とのこと。
そんな彼女が、いまハマっているのは、「バンディ ネイルカラー」。
バンディは、オーガニック素材だけを使用したネイル製品を取り扱う、韓国発の自然派ブランドだ。「ネイルカラー」シリーズはカラーバリエーションも多彩で、ピンク系やアプリコット系など、優しいカラーが豊富に揃う。
「ネイルって、その人を映す"鏡"でもあると思う」と、B子さん。
以前は、「みんなと違うデザインを」と、派手なカラーや奇抜なネイルばかり追い求めていた。だが、エコなネイルカラーを知り、他人にもそれを薦めるようになると、考えが変わったという。
「他人と同じか違うかは、重要じゃない。大切なのは、ネイルやファッションで、自分が何を表現したいか。"優しさ"にポイントに置くようになって、気持ちがラクになった。男性も含めて、友達にもウケがよくなった気がします」と笑う。
マスキングテープをネイルに
「これぞ、究極のエコネイルって感じ、しません?」
名古屋の百貨店に勤めるC子さん(30代前半)が見せてくれたのは、いま流行している「マスキングテープ」を使った、オリジナルネイルだ。
マスキングテープは、文具店や100円ショップで人気の商品。ハートマークや花柄、ドット柄など様々なデザインがあり、アルバムやラッピング、キッチン用品などを彩るテクニックも、テレビの情報番組などで多数紹介されている。
そこに目をつけたC子さん、ある日突然、「これってネイルに使えないかな?」と思いついたそうだ。
彼女もA子さんやB子さん同様、それまで爪や指先の傷みに悩んでいた。一般的なネイルカラーを塗ったり落としたりすれば、そのたびにダメージがあるし、除光液を吸った後のコットンもゴミになる。
「もっとお手軽に、テープで爪先をデコれれば」と考えたのだ。
使い方は簡単だ。デザインしたい柄(おもにドット柄やハートマークなど)のマスキングテープを、爪のサイズに合わせてカットして貼るだけ。
「爪全体に貼るより、フレンチネイルの爪先や、爪に一部斜めがけして貼るほうがオシャレですよ」とC子さん。
強度が気になる場合は、クリアなトップコートを塗ればいい。テープ以外の部分は、肌色や透明など"単色"のネイルを塗ればいいため、「除光液もほとんど要らないし、ゴミも少量で済む。ほんと、エコでしょ」と胸を張る。
その他、最近は爪磨きでも、エコで知られる「重曹」を利用するエコガールが増えている。重曹を水で溶き、ペースト状にしたもので爪を磨くのだ。
先のB子さんも、その一人。
「爪の表面がつるつるになるし、甘皮もやわらかくなる。エコなだけじゃなく、甘皮ケアにもなりますよ」と教えてくれた。
かつては、爪や肌への刺激があり、エコをイメージしにくかった、ネイルの世界。
そこでもいま、オシャレに貪欲な20~30代女子は、新たなエコグッズを見出し、独自のネイルカラーやデザインを開拓している。彼女たちのオシャレ心が眠らない限り、これからも人と地球にやさしいエコネイルが、世の中を明るく彩ってくれるだろう。
マーケティングライター。インフィニティ代表取締役。財務省財政制度等審議会専門委員。1968年東京生まれ。日大芸術学部映画学科(脚本)卒業後、大手出版社を経て2001年に起業。トレンド、マーケティング、小売流通、ホテル、旅行関連などをテーマに執筆、講演を行う。2012年4月から東京女学館大学講師、テレビ番組のコメンテーターも務める。「男女1100人の『キズナ系親孝行、始めました。』」(河出書房新社)など著書多数。
[nikkei WOMAN Online2013年3月5日掲載]
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