「風立ちぬ」だけじゃない 映画・海外ドラマの新定番
【戦争・終戦テーマ】 宮崎監督の新作アニメを皮切りに作品が相次ぐ
今年は終戦から68年目で特に節目の年ではないが、7月以降、戦争・終戦を題材にした作品が目立っている。宮崎駿監督の新作アニメ『風立ちぬ』を皮切りに、『終戦のエンペラー』『少年H』『永遠の0』と続く。製作する側にはそれぞれの思いがある。
例えば『風立ちぬ』の鈴木敏夫プロデューサーは、「宮崎駿は昭和16年生まれですから、戦争の洗礼を受け、戦闘機や船といったものが好きなんですが、戦後は戦争反対の時代を迎える。そうした矛盾の中で生きた人なんですよね。戦争反対でありながら、一方では兵器関係が好きだし、恋愛小説なども好き。『なぜ自分みたいなものができたのだろう?』ということが大きなテーマとなっています」と語っている。
激動の時代を生き抜く
『少年H』の降旗康男監督は、製作に寄せたコメントで「戦前と戦後で価値観が全く変わってしまった日本で、ぶれずに諦めずに信念を持って生き抜いた少年Hたち家族の姿に感動した読者の一人として、その爽やかな感動をフィルムに焼き付けたい一念で準備を進めてきました」と述べている。
共通しているのは、戦争・戦後という激動の時代を主人公が生きたこと。映画を見れば、観客も彼らから今を生きる活力を感じ取れるはずだ。
【ヒーローのコラボ】 日米で複数のヒーローがひとつの作品に集結
日米で、複数のヒーローがひとつの作品に集結するケースが目立っている。日本では4月に『仮面ライダー×スーパー戦隊×宇宙刑事スーパーヒーロー大戦Z』が公開。昨年、仮面ライダーとスーパー戦隊がコラボしているが、今年は宇宙刑事ギャバンが加わった。
米国では昨年アイアンマン、ハルク、マイティ・ソー、キャプテン・アメリカが集まる『アベンジャーズ』が公開され、2015年夏には続編が予定されている。ヒーローのコラボ作品は、その後に続くヒーロー単独作の動員を底上げする効果があり、『アイアンマン3』は日米で前作を超えるヒットとなった。
『アベンジャーズ』は大手アメコミ出版社マーベルのヒーローだが、ライバルのDCコミックもスーパーマンやバットマンらがコラボする作品を企画している。
【アップリンクのドキュメンタリー】 渋谷の奥で毎日行列ができる映画館
渋谷駅から徒歩約15分。ここに配給会社のアップリンクが直営する映画館があるが、ここ1~2年、行列が絶えないという。
きっかけは、2011年4月に公開した『100,000年後の安全』だ。フィンランドの放射能廃棄物の埋蔵実態を追い、連日人があふれ返った。
「ドキュメンタリーに力を入れており、特に、食べ物や環境に関する作品は数多く手がけていました。『100,000年後の安全』も震災前に買ってあって秋公開の予定でしたが、震災直後の情報が全くないなか、思い切って公開し、最大の動員を記録しました」(藤井裕子支配人)。
ほかにもアーティストものの『ふたりのイームズ』、若者から支持を集めた『セックスの向こう側~AV男優という生き方』などがヒット。「語りたくなる作品を幅広くそろえていきます」。
【第4次韓流】 映画、ドラマ、音楽、そしてミュージカルへ
竹島、慰安婦と、緊張の火種が絶えない日韓関係だが、エンタ界での民間交流は続いている。年初から始まった東方神起の全国ライブは50万人以上を動員。2PMは4月に初の東京ドーム公演を実施した。少女時代も4月に20万人ツアーを終えるなど、コアなファンの熱気は冷めない。
「ブームは終わった」と言われながらも、映画からドラマ、音楽へと韓流人気は広がってきた。これらに続く韓流第4の新潮流は、歌とダンスの実力を生かしたミュージカルだ。
東方神起、少女時代を擁するS.M.エンタ所属のソンミン(SUPER JUNIOR)ら出演の『サマースノー』が兵庫に続き、東京では6月15日まで上演された。8月には2PMのメンバーらが出演する『三銃士』も渋谷で公演。人気者が主演する回はプラチナチケット化しており、まだまだ女性の列が途切れることはなさそう。
【なつかしヒーロー】 80年代マッチョ系ドラマが動画配信で人気
疲れて帰宅した深夜、ふとつけたテレビで放送されていた、往年の海外ドラマの再放送が妙に懐かしくて、昔を思い出しながら見入ってしまった経験は誰にでもあるだろう。しかし、録画してまで見るのは面倒だった。
だが、今やスマホやタブレットが普及。海外ドラマを配信中の「Hulu(フールー)」などのサービスと組み合わせれば、『超音速攻撃ヘリ・エアーウルフ』『ナイトライダー』『マイアミ・バイス』など80年代のヒットドラマが、いつでも見られると人気だ。
80年代は世界が冷戦状態にあり、米国は自らの覇権を世界に強くアピールしていた。当時のドラマはその宣伝ツールでもあったため、勧善懲悪の分かりやすい"マッチョ系ドラマ"が多い。それが時代を超えて、サービス残業、リストラと明日をも知れない待遇を受ける中年層の、一服の清涼剤になっている。
【安倍総理発ヒット】 ゾンビ&犯罪捜査ドラマの"アベノエンタ"が話題
昨年末に第2次安倍晋三内閣が発足以降、「アベノミクス」で日本の景気が上向くかと期待が集まり、そのブームは、エンタ界にも波及している。
人気を追い風に、安倍総理は、親しみやすさをさらにアピールするため、4月に朝の情報番組『スッキリ!!』(日本テレビ)に出演。長嶋茂雄氏・松井秀喜氏の国民栄誉賞や景気対策などのほか、ストレス解消法として語ったのが海外ドラマ鑑賞だった。
そこで総理が、見て楽しかったドラマに挙げたのは、『THE MENTALIST/メンタリスト』と『ウォーキング・デッド』。前者は全米で2008年から現在も放送中の人気シリーズ。カリフォルニア州捜査局のコンサルタントを務めるパトリックは、もともと、インチキ霊能者としてテレビで人気者だった。彼が得意の人心掌握術を駆使して、犯罪者の嘘を見破っていく。
もう1作は、原因不明の理由で人類がどんどんゾンビ化。取り残された人間たちの生き残りバトルを描く、こちらも2010年から放送中の人気シリーズだ。
この発言後、「メディアからの問い合わせやレンタル店で借りる顧客が増えた」(海外ドラマ宣伝マン)というが、海外ドラマ好きの間で話題になったのはその作品のチョイス。嘘つきばかりが出て来る推理モノと、銃や斧やバットで頭をぶっ飛ばすゾンビもの。政界の魑魅魍魎(ちみもうりょう)に囲まれ、ストレスがたまっていたのかもしれない。
(ライター 相良智弘、日経エンタテインメント! 平島綾子・白倉資大)
[日経エンタテインメント! 2013年7月号の記事を基に再構成]
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