アベノミクス農業6次産業化は至難の業(加藤百合子氏の経営者ブログ)

2013/6/17

1×2×3はいくつになると思いますか。農林水産省の方なら6と即答するでしょうが、私は考え込んでしまいます。そう簡単にはいかない。並大抵の努力では6にはならないぞ。

加藤百合子(かとう・ゆりこ)1974年千葉県生まれ。東大農学部で農業システムの研究に携わり、英国クランフィールド大学で修士号取得。その後、米航空宇宙局(NASA)のプロジェクトに参画。2000年に帰国しキヤノン入社。2001年、結婚を機に退社し静岡に移住。産業用機械の研究開発に7年ほど従事したものの農業の社会性の高さに気付き、2009年エムスクエア・ラボを設立。2012年青果流通を変える「ベジプロバイダー事業」で日本政策投資銀行第1回女性新ビジネスプランコンペティション大賞受賞。

先日、こんな講演を静岡市内でしました。おかげさまで定員を上回る聴講者に集まっていただきましたが、本当に聞いてほしかった農家の方よりも行政の方のほうが多かったのは意外でした。テーマは「6次産業化」。農業などの第1次産業が食品加工(第2次産業)やサービス(第3次産業)に進出することを意味する言葉です。昨今、農業の世界では熱い議論が交わされている話題ですが、一般的には聞いたことがない人のほうが多いのかもしれません。

具体例を挙げますと、有機野菜を育てている農家がその野菜をふんだんに使うレストランを開業する。自分の畑で取れた果物をジュースやジャム、アイスクリームなどに加工して消費者に直売する――など。業態を広げることで付加価値を高め農業経営の活性化を図るのが狙いです。政府も補助金の交付を通じて積極的に6次産業化を後押ししており、農家のみなさんは「我が家も乗り遅れてはならない」と焦り始めている状況です。

気持ちは分かります。「環太平洋経済連携協定(TPP)への参加で海外から大量の農作物が日本に入ってくる。このままではじり貧だ」。あるいは「レストランを任せるといったら東京に出た息子が帰ってくるかもしれない」といった話をよく耳にします。でも、ちょっと待って下さい。小売店や飲食店は毎年ものすごい数が店じまいしているんですよ。レストランの経営なんて、その道のプロでも難しいのです。

ある有名なフランス料理の支配人が都会の店を辞めて地方に引っ越しました。「自分で育てた納得のいく食材で料理したい」との思いが募り、畑とレストランの併設施設を開業。おいしいと評判で客足も悪くないのですが、それでも利益はほとんど出ないそうです。

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