入隊迫る東方神起、JYJ…韓流スター徴兵Q&A

韓国では、男性は29歳（数えで30歳）の誕生日を迎えるまでに兵役の義務がある。今、大物の韓流スターたちが、その年齢に近づき（下表参照）、周辺では「ギリギリまで、アルバムやツアーを企画したいので残り時間との戦い」（業界関係者）や、「ファンのチケット争奪戦が激化中」（韓流ライター）と熱が増している。

例えば、東方神起のユンホは1986年2月生まれで、2014年2月に28歳。単純に年齢だけ見れば、入隊の期限まであと1年少し。あくまでも期限なので、その前に入隊する可能性もある。そこで、2013年10月末に東京ドームで開催された所属事務所のイベントは、「ユンホに1度でも多く会いたいファンが殺到し、チケット入手の困難さは過去最高だった」（音楽業界関係者）。同じく人気のJYJのジェジュン、ユチョンなど、同年代スターのファンも心配している。

今、韓国でも韓流スターの入隊についての報道が多い。顔ぶれの豪華さだけではなく、2013年に芸能人への特別待遇が無くなったことに起因している。

これまで、有名芸能人と軍隊に認められた人物は、「芸能兵」と呼ばれる部門に配属されることが多く、慰問公演や広報活動を担ってきた。しかし、日本でも人気の歌手で俳優のRainが、2012年末に服装規定違反に。また、ライバルのSE7EN（セブン）も素行不良と不祥事が相次ぎ、廃止になった。今後、芸能人も一般人と同じ待遇を受けるため、スターがどこに配属されるのか、メディアもその動向を追っている。

ファンにとっては寂しい韓国の徴兵だが、タレント側にとっては、メディアやファンの注目を集めるチャンスにもなる。

例えば、超新星のユナクは2013年7月に除隊。彼を出迎えようと、史上最多の約1500人ともいわれる日本人ファンが韓国を訪れた。2013年11月13日からは日本で主演ミュージカル「あなたの初恋探します」がスタート。そして同年12月には約2年ぶりに自らも参加するアルバムや各種イベントと、「除隊後ビジネス」で引く手あまただ。

また、CODE（コード）-V（ブイ）のように、入隊前最後の新曲に徴兵を思わせる歌詞を入れるなど、売るための戦略として取り入れる例も。大物の入隊がありそうな2014年以降、韓流の行く末を占う上でも「徴兵」は重要なキーワードになる。

ここ数年、H.O.Tや神話といった韓国の「第一世代」アイドルが兵役を終えて復活。次に入隊するのは彼らの後輩の「第二世代」で、1985年生まれ以降の人。韓国メディアは東方神起やJYJらの入隊予定に関する話題を報道。

日本のファンの熱は2年程度のお別れでは冷めない。日本で実績のあるスターは除隊後もうまくカムバックできており（下表）、入隊前に日本で成功するのが人気継続のカギに。

映画「JSA」で、韓国の兵士が北朝鮮兵に分け与えたチョコパイ。今でも、厳しい生活での甘いモノは格別。軍の中にある教会に礼拝に行くとチョコパイがもらえることから、俳優のソン・スンホンが兵役中にチョコパイ欲しさに教会に通ったと、友人が暴露。ワイドショーなどで話題になったことも。

韓国では兵役中の別れを「コムシン（伝統的な履物）を逆さに履く」と言い、破局カップルも多い。俳優チソンも、付き合っていた女優パク・ソルミ（『冬のソナタ』の悪役）と兵役中に破局。彼女は「コムシンを逆さに履いた女」とバッシングを受けたが、待つ身の女性からは同情の声も。結局2人は2013年、別の人と結婚した。

もし芸能人と同じ部隊に所属すれば、誰でも興味津々になるもの。韓国で有名なタレント「ブーム」は、軍隊でいじめを受けない秘訣として「有名女性芸能人と親しいふりをすること」と語る。女優キム・テヒの弟でアイドルのイワンも、姉のおかげで先輩からかわいがられたとテレビ番組で話した。

2010年に韓国デビュー後、人気ドラマの挿入曲で美声バラードが評価。2012年に日本デビューし、2013年発売の3rdシングルはオリコン週間チャート6位に。そんな男性4人組のCODE-Vは、2013年末をもって、サンウ、ナロ、ルイの3人が活動を休止、2014年から約2年の兵役につくことを発表した。彼らは2014年、28歳になる。徴兵年齢の限界までラスト1年になり、本国から帰国の命令が出たという。帰っても現在、韓国での活動は無いため、入隊を決めた。

入隊を発表した2013年10月、持ち前の親しみやすさを武器に、各地を回るツアー中だった彼ら。入隊を聞いたファンから「（除隊を）ずっと待ってるよ」と声をかけられ、胸を熱くしたが、「まだ泣かない約束」（プロモーション担当のドリーミュージック・樫田奈都氏）を守った。これは、2013年12月にもともと予定していた日本武道館ライブが「入隊前のラストワンマンライブ」になるたためだった。

知名度はまだまだのCODE-Vだが、彼らの徴兵を日本の韓流メディアも多数報道。入隊ネタが、認知度を上げるきっかけになった。2013年11月13日発売「今、伝えたいこと」の歌詞には「来年も再来年も僕を思い出して」の言葉を盛り込み、「入隊ソング」としても心に響くバラードに。

また、1人だけ残るソルを中心にCODE-Vの活動は継続するため、新メンバーオーディションを開催。徴兵が韓流ビジネスにどのような熱を与え続けるか、今後も注目のグループだ。

過去には俳優のソン・スンホンとチャン・ヒョク、そして歌手PSYの兵役逃れが発覚している。ソン・スンホンは涙ながらの会見のおかげか除隊後は堂々とドラマに復帰したが、チャン・ヒョクは悪いイメージの払拭に苦労。PSYも兵役代わりの企業勤務が兵役逃れとして摘発され、再入隊する羽目に。

歌などに合わせて勇ましく振る舞うため、軍隊では、顔の前で両手を打ち、その手を大きく振り下ろす拍手をする。この他に、軍隊式として有名なのは、「頭を（地面に）打て」。両手を後ろ手に結んで、頭を地面に打ち付けるもので、罰則としてやらされる。除隊後の芸能人がテレビでやって見せるなど、話題にのぼりやすい。

韓国で今人気の5人組女子アイドルCRAYON POP（クレヨンポップ）が軍隊でも大人気。以前のKARA、少女時代と同じように、兵士のダンスまね映像が動画サイトにアップされ、今や国民的なアイドルに。セクシー路線のアイドルが受けていた軍隊の慰問公演に「かわいい系」が新たな風を呼び込んだ。

韓国人男性は兵役法により19歳になると兵務庁の命令で徴兵検査を受けなければならない。検査では精密な身体・精神的検査が実施され、1級～7級までの身体等級が決められる。全体の95%が徴兵合格とされる1～4級となり、4級は自宅通勤で役所や公共機関の補助をする公益勤務要員になる。

徴兵検査後、すぐ入隊する必要はなく、国内外の大学・大学院に在学中などの理由で、最大で29歳になる前まで延長できる。正式に入隊を届け出た後は、公平性を保つために配属先はコンピューターによって振り分けられ、所属が決まれば訓練施設で実技・精神訓練を5～8週受け、その後射撃や侵入・行軍といった戦闘訓練をしながら警戒勤務に従事する。

韓国のほぼ9割の男性は陸軍に所属し、残りは空軍、海軍、海兵隊に分けられる。世界的にも軍律が厳しいことで有名な海兵隊は100%志願者で構成されている。唯一筆記試験があるのが空軍で、競争率は5～10倍、海軍は、3～6倍に及ぶ（海兵隊と海軍は体力テストと面接）。

海・空軍は陸軍よりも休暇が多く、戦艦や戦闘機を操るため肉体的に厳しい訓練が少ないということもあって競争率が高い。一方、陸軍は過酷な訓練が日々行われる。なかでも砲兵隊や機甲師団は兵器が重いため、誰もが配属されるのを避けたがる。

それに対して人気のある兵科は、将校の秘書である従卒兵、部隊内の売店で働くPX兵、軍隊内の宗教に携わる軍宗兵が代表的。ただ従卒兵など比較的楽な兵科は韓国でいうところの「バックがある（強い後ろ盾がある）」家の子息が配置されることが多く、庶民にはなかなか手の届かない配属先だ。アイドルや人気俳優が配属されることで日本でも度々話題になる芸能兵は、軍人の報道や広報活動を行っていたが、芸能人の度重なる不祥事が続き2013年廃止された。

20代の貴重な時間を国にささげ、軍生活は21カ月後に除隊を迎える。

写真:Yonhap/アフロ、Top Photo/アフロ、アフロ、AP/アフロ、ZUMA Press/アフロ

（ライター　尹秀姫、李光範　日経エンタテインメント！　白倉資大）

［日経エンタテインメント！ 2013年12月号の記事を基に再構成］