クマ出没報じた記事を分析「おや?」熟年クマガール雑記

新聞社を辞めて生活が変わったことの一つが、新聞をのんびり読めるようになったことだ。もう日々のニュースに神経をとがらすことはないし、目を通す紙数も減った。だが、ことクマの記事に関してはそうもいかない。東京農工大の研究生論文のため、迷った末に選んだのが、クマの出没報道の内容分析だったからだ。

「なぜ新聞?」学生の突っ込みに複雑

論文執筆のため図書館で下調べに追われた(東京都府中市の東京農工大)

日本には、北海道にヒグマが、本州以南にはツキノワグマがすんでいるが、2006年にはツキノワグマが人の暮らす地域の近くに現れるケースが例年になく多かった。1年間に殺された数は4300頭余り。生息数はよくわからないが、環境省が既存情報の集計として発表したのが約1万2000~1万9000頭(11年)だから、相当な割合が人間によって命を落としたことになる。

社会現象のようになったクマの大量出没をメディア、特にクマがよく現れた地方の新聞はどう伝えたのか、人間との摩擦の背後にある問題についても丁寧に報じたのだろうか。これが私の知りたい点だったが、ゼミで研究計画を発表すると、想定外のパンチを食らった。

学生たちは「なぜ新聞なんですか?」「ネット情報も対象にすべきでは?」と突っ込んでくる。「でも情報の独自性や信頼性を考えると……」。こう応じながらも、20歳そこそこの若者にとって新聞がニュースの入手先として昔ほど優位にないことを痛感し、心は穏やかでない。

クマ記事探しのため新聞ライブラリーにたびたび足を運んだ(横浜市中区の日本新聞博物館)

結局、捕獲件数の多い長野、山形、新潟3県の地方紙を対象に、クマの出没を扱った記事をキーワードで検索することに決めた。主要な公共図書館で利用できるデータベースサービスでは、地方紙の記事検索がほとんどできなかったため、作業は思いのほかてこずったが、なんとか571本の記事を抽出。記事の性格や長さ、テーマ、表現といったチェック項目に照らして、報道の問題点を探った。

クマによる被害が続くと、地元では「とにかくクマを殺せ」という声が強まりがちだ。だが場当たり的に駆除を重ねても、クマはまた現れるだろうし、人との不幸な遭遇事故が起きれば、またもや猟友会の出番となる。こんな悪循環を断つには、普段は人間を避けるクマがなぜ人里近くに現れるのかを調べ、根本的な対策を打たなくてはならない。

次のページ
解説交えた記事は全体の1割どまり