全国の書店員に聞いた 今、読んでほしいマンガ
日経エンタテインメント!
近年の大ヒット作、『進撃の巨人』や『暗殺教室』もその火付け役は書店だった。現場の目利きたちがビッグヒットを生むことが少なくない中、より書店の店頭を盛り上げ、マンガを売り伸ばそうと出版取次大手・日販が毎年この時期に発表するランキングが「全国書店員が選んだおすすめコミック」。全国の書店員が薦めたいマンガを募集するもので、2014年は2250人の投票によってトップ15が決まった。
男性向けマンガが上位に並ぶ
1位に輝いたのは、『坂本ですが?』。教室のドアに仕掛けられた黒板拭きをエレガントなポーズで受け止め、カーテンを開ける動作すら絵になるイケメン高校生・坂本の華麗な日常を楽しむギャグマンガだ。
続く2位『亜人』はダークファンタジー、3位はグルメバトルもの…と6位までは男モノの作品が続いた。
純粋な女性向けのトップは、7位『ハニー』。少女マンガ誌『別冊マーガレット』連載中で、どこにでもいそうな女子高生と誰もが恐れる赤毛の不良との恋を描いたラブストーリー。ワルだと恐れていた男が実はめちゃくちゃ優しい心の持ち主だと分かっていく展開は、大人が読んでも胸キュン&ほっこり度120%。今後人気が広がっていきそう。
そのほか、世代を超えて楽しめる作品ぞろい。そこで今回、上位10作品の読みどころを詳しく解説する。
関連サイト:http://www.honyaclub.com/shop/pages/osusume_comic2014.aspx
七三&メガネのスレンダー男子高校生の華麗でクールすぎる学園ライフ
スレンダーな体形、七三分けの黒髪にメガネのイケメン高校生・坂本君。その高校生活は、何から何まで美しい。
女子に絶大な人気があるせいでいじめのターゲットになることもしばしばだが、常にスタイリッシュで礼儀正しいのが坂本流。教室のドアに黒板消しを仕掛けられたら、モデルのようなポーズでキャッチ。机と椅子を隠されれば、「ここで結構ですから」と窓べりに腰かけクールに予習。体育授業でのドッジボール集中攻撃にも、華麗かつ俊敏にかわし続ける。
「なぜいちいち、そこまでカッコイイんだよ、坂本!」と突っ込みを入れて楽しむタイプのギャグマンガなのだが、あまりにもスタイリッシュに読み手の想像を超えていく坂本スタイルに、笑いを超えてくぎづけになってしまうのが本作の斬新なところ。もっともっと、坂本君の芸術的な行動を見たい衝動にかられる。
読み手と同様、坂本をターゲットにする学校イチの不良たちも、パシリを超一流のおもてなしで返す坂本のやり方に、感動すらしてしまうのも面白い。
坂本に好意を寄せる女同士の嫉妬に対しても、ただ断るのではない。相手に断っていることを悟られず、女子同士を友だちにさせて自分への興味をそらしていく。そんな問題解決力も素晴らしい。
坂本君の美学と流儀を、じっくりご堪能あれ。
書店員の推しポイント:エレガント男子高校生に目が離せない
・なぜ坂本のように生まれ育ってこなかったのかと、後悔するほどにかっこいい。スタイリッシュ&エレガント…甘美な言葉で彩られる彼の行動は見逃せない!(蔦屋書店小出ショッピングセンター店・渡辺靖さん)
・クール・イズ・ビューティフル。クーレスト・イズ・メガ・ビューティフル。みんなで決めよう、秘技・反復横跳び(岡森書店白鳳店・辻村健一さん)
全人類からの魔の手が迫る! 不死なる新人種「亜人」の黙示録
不死者――。殺しても死なない、死んでもよみがえる存在は、吸血鬼をはじめ、畏怖の対象とされてきた。しかし本作の「亜人」は違う。「不死であること以外に特殊な能力を持たない存在」と認知されている。見た目は人間そのものながら蘇生能力を持つ亜人は、その力を求める人類に人体実験の対象とされる。つまり「不死者=強者」ではなく、追われ、虐げられるバケモノとして扱われているのだ。
本作の主人公・圭もまた亜人であることが判明するや否や、平凡な学生生活を奪われ、逃亡の日々に突入する。一瞬にして日常が悪夢へと変わり、不死を求める人間の欲望が迫る。
息もつかせぬアクションとひしひしと迫る恐怖から、目が離せない。
書店員の推しポイント:「巨人」の次は「亜人」、謎が謎を呼ぶ展開にくぎづけ
・読み進めるにつれて深まる「亜人」のナゾ、亜人VS亜人の戦い。主人公のこれからの行動に目が離せない(うさぎやTSUTAYA小手指店・長野めぐみさん)
・『進撃の巨人』の次は「亜人」? 表紙もタイトルもインパクトあり。内容、ストーリー展開はさらにインパクトあり。大ブレークの予感(未来屋書店三光店・立花貴子さん)
すご腕少年の究極の味をおあがりよ! 肉汁したたる、熱血料理の数々
最近のマンガ界で最も熱いジャンルのひとつが料理マンガ。その原点をたどると『週刊少年ジャンプ』で1970年代半ば連載された『包丁人味平』(原作・牛次郎、漫画・ビッグ錠)に行き着く。そして本作は、『ジャンプ』に再来した熱血料理勝負マンガの新星だ。
本作では、主人公のソーマ(創真)が、定食屋の厨房で鍛えた腕で巨大料理学校に旋風を巻き起こす。注目は料理シーン。独創的なアイデアに満ちた料理の数々は、舌の上でうまみが踊る「化けるふりかけごはん」、箸が止まらなくなる「ステーキ丼」など実においしそう。
料理を食べる審査員たちのリアクションも見どころ。特に女性キャラの食べっぷりが、セクシーでみずみずしい。読むとお腹が空いてくるはずだ。
書店員の推しポイント:食欲そそる料理にエロさをプラス
・出てくるどの料理にも食欲をそそられる。料理マンガの新星現る(文教堂書店杉田とうきゅう店・福島理美さん)
・王道料理バトルと思ったら、なんかエロい! けど戦いが熱い! キャラクターも熱い! 線が細くてキレイでとてもリアル。お腹が空いてくる(宮脇書店野木店・大沢真澄さん)
奇想天外な冒険に心が躍る 本格ヒロイックファンタジー
「剣と魔法の世界」はゲームなどでおなじみで、食傷気味な人もいるかもしれないジャンル。しかし本作は、良質のファンタジー特有の、胸躍るワクワク感にあふれており文句なしに面白い。
本作の主人公・メリオダスは、見た目は少年ながら、反逆者のレッテルを貼られたスゴ腕騎士団「七つの大罪」の元首領。そんな彼が、王女と共にかつての仲間を探しつつ、敵と戦っていく。
登場キャラは、雲をつくような巨体ながらメリオダスに恋する女騎士、不死身の肉体を持つ無頼な剣士、言葉をしゃべる豚など多彩で個性的で見ていて楽しい。
アクションシーンは迫力満点。何よりファンタジー世界を手に届くかのような質感で描き出した高い画力が素晴らしい。4大週刊少年誌すべてで連載経験を持つ作者の、集大成となるに違いない。
書店員の推しポイント:個性的キャラ&迫力バトル、ワクワクが止まらない
・個性あふれるキャラと一緒に泣いたり笑ったり。何度でも夢中で読める面白さ。メリオダスの相棒にして酒場の看板豚ホークも愉快(かんの書店本店・八木千瑛さん)
・個性的なキャラ、迫力ある戦闘シーン、先の読めない展開、ワクワクさせてくれる(いまじんウイングタウン岡崎店・天野さん)
こんなヒーローにやられたくない! 強すぎてつまらないヒーロー見参
『アイシールド21』の村田雄介が作画を担う、異色のヒーローギャグ。村田雄介は絵がべらぼうにうまいことで知られるが、その高い画力で描かれた敵たちは邪悪で力強く、アクションシーンは迫力満点。
そんな屈強な敵たちが落書きみたいなやる気なさそうな顔のヒーローに、ワンパンチでぶっ飛ばされる。そのあまりのギャップに笑わずにはいられないし、悪者が不憫(ふびん)すぎて思わず吹き出してしまう。愉快痛快なヒーロー物語だ。
書店員の推しポイント:めちゃくちゃ強いのにユルいヒーローが笑える
・主人公がありえない強さで爽快感大。カッコおもしろいアクションマンガ(本のがんこ堂野洲店・荒川充子さん)
・強いのに見た目のユルさからヒーローランクは下のほう。そんなイマイチ日の目を見ない地味な主人公の性格が面白い(ブックエース酒門店・和田鍋由佳さん)
隠れイケメン草食男子とギャル風地味系女子のスローラブ
1巻の表紙から抱く印象は、草食系メガネ男子と今どきギャルの青春ラブストーリー。ところが地味男子はメガネを外すとイケメンで、体のあちこちにピアスホールを開けるなど意外に大胆。ギャルのほうは放課後に遊ぶでもなく、自宅で弟の世話を焼いたり特売の買い物に一喜一憂したり家庭的。
隠れた素顔を持つ2人がもじもじしつつ引かれ合っていく姿は、もどかしくも甘酸っぱい。読み進むたび、かわいい2人に愛着がわいてくる。
書店員の推しポイント:見た目と真逆の2人の接近がいじらしい
・自分だけが知っているあの人の姿、ってドキドキ。そこから始まる恋にトキメキます(紀伊國屋書店渋谷店・柳川明義さん)
・恋愛のドキドキがドストレートに伝わってくる。読んでいてこんなにジタバタするマンガは初めて(井荻書店本店・早乙女あゆみさん)
学校中が恐れるこわもてヤンキーの「自分だけが知る」素顔にドギマギ
真面目に学生生活を送ってきたつもりの奈緒。なのに、高校入学してまもなく、赤髪に無数のピアス、問題児とウワサのこわもての不良・鬼瀬から「結婚を前提にお付き合いしてください!」と花束持参の告白を受ける――。そんな急展開から始まる心躍る少女マンガ。
とりあえず、友達になった2人。鬼瀬の素顔は、ゴミ拾いをしたり、手作り弁当を持参したり、クラスの問題児を仲間にしたり実はめちゃくちゃイイ奴。奈緒はそんな優しい内面に直面するたびに、心が揺さぶられる。
「第一印象最悪だった男を好きになってしまった」というのは女子のあるある恋愛パターン。その心の変化を疑似体験するような、リアルドキドキがたまらない。また、こわもての鬼瀬が照れる姿もかわいい。ピュアな恋愛を忘れた大人女子こそ読んでほしい。
書店員の推しポイント:真剣告白から始まる胸キュンラブ
・第一声が「結婚を前提にお付き合いしてください」。こんな少女マンガ読んだことない(TSUTAYA大安寺店・山崎拓未さん)
・「結婚を前提にお付き合いして下さい!!」の言葉に胸キュンハートメイン2人以外のキャラクターたちもすごくすてき(TSUTAYA AVIX福知山店・岩見咲姫さん)
長期カップルのほっこり深い愛情を男女の視点で描く、新感覚ラブストーリー
8年間同棲中の、アラサーカップル・リツコとのんちゃん。面白いのは、2人の間で起こった1つのエピソードを双方の目線で2話に分けて読ませる構成。リツコが合コンに誘われれば、余裕を見せる対応にムッとするリツコと、行ってほしくなくて当日ヤキモキするのんちゃん。男女間の小さなすれ違いをつぶさに描きながら、互いに大事に思い合う長期カップルの愛情をふんわりと浮かび上がらせる。読むと好きな人の顔が見たくなる。
書店員の推しポイント:実は思い合っている、大切な気持ちを思い出す
・同じ話を男女の目線で描かれるから、パートナーとすれ違いぎみのアナタにぜひ。大切な気持ち、思い出せます(いまじん春日井南店・稲福麻美さん)
・10年一緒に暮らしていようとも分からない、男女の思考違い。男女関係って難しい(ダイハン書房岡本店・木戸隆博さん)
超絶美女だって、恋は簡単じゃない! 口下手な2人のスローな青春ラブ
モデルと見間違われるほどの、絶世の美少女高校生・すいれん。学校中のアイドル的存在だけど、だからといって恋がうまくいくわけではない。しかも好きになった相手もまたシャイで不器用だから、自分でがんばるしかないのだ。
「ありがとう」の気持ちすらうまく伝えられず、恋のライバル相手にうろたえる…。なかなか進まない恋が切なくて、やきもき&悶絶(もんぜつ)しつつも、だからこそ2人が通じ合う瞬間がとてつもなくいとおしくきらめく。
書店員の推しポイント:心がふんわり温まる、スローでピュアな恋愛
・恋愛から遠のいている人、心が冷えちゃっている人などぜひ。心がふんわりしてくるピュアな作品(宮脇書店聖籠店・伏田珠理さん)
・『君に届け』のようなゆっくり進む恋愛好きな人向け。派手さはないが見守りたくなる恋愛マンガ1位(夢屋書店ピアゴ多治見店・林美歩さん)
酒好きOLが今夜もどこかで 酒とつまみの一人旅
仕事帰りの一人飲みを日課とする、酒好きOLワカコが、おいしい酒と肴(さかな)を求めて飲み歩く。
最近のグルメマンガにありがちな実在のお店訪問や、どこまでもリアルな味の感想やウンチクはなし。何気ない大衆居酒屋を舞台に、ビール×ギョーザ、冷酒×あぶり〆サバ、熱かん×アン肝と、絶妙すぎる組み合わせで酒と食事を楽しんでいく。
そして、酒とつまみを堪能するワカコがこれだ、とばかりに、ほほを赤らめ「ぷしゅー」とご満悦の一息を吐くのが定番。ワカコの「ぷしゅー」が見たくて、そして自分も味わいたくて、こよいぶらりと飲み歩きたくなる。
書店員の推しポイント:お酒好きもそうでない人も酒とつまみの世界へGO
・読むとお酒が飲みたくなる。飲めない人でも飲んでみたくなる不思議な1冊(伊勢原書店秦野店・村元由香さん)
・主人公がお酒を飲んだ後の、「ぷしゅー」の一息に共感。お酒をあまり飲まなくても飲みたく、食べたくなる。定番おつまみから意外なものもあって、おいしそう(CA文教堂赤坂見附店・黒川博美さん)
(ライター 芝田隆広、平山ゆりの)
[日経エンタテインメント! 2014年3月号の記事を基に再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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