芸能プロの俳優の売り出し方、才能の伸ばし方
輝く男の発掘・育成法(3)
日経エンタテインメント!
主な芸能プロダクションに所属する男性俳優を、年代別にまとめたのが下の表だ(各年齢カテゴリーにつき1事務所最大3人)。これを見ると、それぞれのプロダクションで、どの世代が充実していて、逆にどの世代が手薄かがよく分かる。
福山雅治が所属するアミューズは、上野樹里、仲里依紗、吉高由里子などの女優が好調な芸能プロだが、20代前半の所属男性俳優の層も厚く、佐藤健と三浦春馬という二人の人気者のほか、ドラマ「クローバー」で主演して上昇を見せる賀来賢人もいる。
アミューズの俳優は、テレビドラマと映画の両方にバランスよく出演して、人気だけでなく演技力の評価も獲得していく。佐藤健も、2012年公開の「るろうに剣心」で演技の評価を高めた。
また、大々的に宣伝は打っていないが、毎年、所属若手俳優が総出演するイベント「SUPER ハンサム LIVE」を開催。2012年12月26日~28日にも、佐藤健、三浦春馬、賀来賢人、神木隆之介、野村周平らが出演し、パシフィコ横浜国立大ホールで「SUPER ハンサム LIVE 2012」が行われる。
こうした若手俳優のイベントは、研音が初開催する「MEN ON STYLE」など、増える傾向。知名度拡大やファンサービスに加えて、新しいビジネスの可能性を秘める。
スカウト力に定評のあるスターダストプロモーション
エヴァーグリーン・エンタテイメントは、溝端淳平(2006年グランプリ)、山本裕典(2005年準グランプリ)、上遠野太洸(2010年グランプリ)、佐野岳(2011年グランプリ)など、ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト出身の俳優を実力派に育てていく。
常盤貴子、中谷美紀、竹内結子、北川景子、瀧本美織らの人気女優が所属しているスターダストプロモーションは、スカウト力に定評がある芸能プロダクションで、市原隼人、山田孝之、濱田岳、岡田将生もスカウトされて入った。
ホリプロは、「天地人」の妻夫木聡、「平清盛」の松山ケンイチと、大河ドラマで主演する本格派俳優を擁する。一方で、演劇の制作を手がけていることもあり、舞台での実績が豊富な藤原竜也、「身毒丸」主演オーディションでグランプリになった矢野聖人も所属する。
高良健吾や井浦新(ARATAから改名)が所属するテンカラット・アプレ事業部は、2011年に芸能プロダクションのアプレが、田中麗奈、香里奈らが所属するテンカラット内に設立した男性俳優マネジメントセクション。映画での活躍も光る個性派を特徴とする。
全体を見ると20代の層の厚さに比べると10代の男性俳優は、まだ抜けた存在がいない。それぞれのプロダクションが強みと得意ジャンルを生かして、次世代の主演俳優の育成を急いでいる。
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【プロダクション研究 (1) トップコート】
演技だけではないマルチな才能を育てる
松坂桃李の所属事務所、トップコートは、成宮寛貴、相葉裕樹、菅田将暉ら、少数精鋭ながら、高いスター性で女性ファンの人気を集めている男性俳優が所属している。
トップコートは、渡辺万由美代表がデビュー前の木村佳乃と出会ったことから、女優として育てるために、1995年設立。
成宮、松坂、菅田らを担当するチーフ・マネージャーの内藤のぞみ氏は「トップコートの男性俳優の売り出し方は、成宮寛貴のときのやり方がベースになっている」と話す。2005年頃、内藤氏がマネジメントを担当するようになって、当時の成宮にプラスしたかったのは、ファッションリーダー的な位置付けだったという。そのため、男性ファッション誌でも積極的に活動して、男性が憧れる、かっこよさを秘めた存在としての魅力を身につけることに力を入れた。
また、「人気が出ても、消費されてすぐに下降しないように」、成宮の知名度が上昇した時期に、あえてテレビドラマのオファーを断ってまでも、蜷川幸雄らの実力派演出家による舞台に出演。役者としての実力を付けさせた。
松坂桃李の場合は、「侍戦隊シンケンジャー」の主演後の展開を、早い時期から戦略的にシミュレーションしていった。
内藤氏は「まず、佐藤健さんら『仮面ライダー』や戦隊シリーズから人気者になった俳優を具体的なモデルケースとして想定した」と語る。内藤氏は彼らが出演する番組や雑誌を研究して、どのヘアメイクやスタイリストのスタッフと組むべきか、今後どのような作品に出演すべきかを考えた。
そして、ヒーローファン向けの雑誌だけではなく、女性誌などの一般誌への露出を徹底。「シンケンジャー」終了後、間髪を入れずに連続ドラマに出演することを重視した。
「放送が終わって1年間は、戦隊出身ということでいろいろと声がかかる"戦隊特需"があります。それを人気が出たと勘違いしてはいけない。そこから本当の力を付けることが重要です」(内藤氏)
松坂が次に"モデルケース"にした俳優は、向井理だった。「シンケンジャー」の翌年には、映画「僕たちは世界を変えることができない。」で向井理と共演している。向井理がNHK朝ドラでブレイクしたのを手本として、松坂も朝ドラ出演を狙い、「梅ちゃん先生」に出演。知名度を高めた。
「どうしても朝ドラに出たかったので、内容が決まる前から、民放の連ドラを断って、スケジュールを朝ドラのために空けておいて待っていました」(内藤氏)
ファンイベントに力を入れる
最近は複数の所属俳優が出演するイベントを開催する芸能プロが増えているが、いち早く、ファン向けイベントに力を入れてきたのがトップコートだ。成宮もかつては定期的に行っていた。
イベントを開催する意義について、内藤氏は「男性俳優は女優以上に、特にファンの存在が不可欠と考えています。女性のほうが母性によって育てる気持ちで応援してくれるので、一時的な人気のアイドルではなく、年齢を重ねてもずっと応援してもらえる"俳優"になる必要があります」と話す。
ファンイベントは、トライアルの場所としても位置付け、松坂はコントにも挑戦した。俳優にドラマや映画に限らず、様々なジャンルに挑戦させるのはトップコートの特徴で、松坂も昨年3月まで1年間、日テレ系のトークバラエティー「心ゆさぶれ! 先輩ROCKYOU」に出演した。
演技力が専門家に評価される「玄人好み」の俳優よりも、多くのファンに支持される、マルチな俳優に育てていくことが、トップコート流と言える。
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【プロダクション研究 (2) 研音】
若手俳優のイベント開催、育成とファン獲得を狙う
山口智子、江角マキコ、菅野美穂、榮倉奈々ら多くの主演級女優が所属する、大手芸能プロダクション、研音。男性俳優も唐沢寿明が所属するほか、反町隆史と竹野内豊は1990年代から連ドラで主演して、"いい男"俳優のパイオニア的存在となった。
現在、研音所属の若手男性俳優のエース格としては、速水もこみち、松田翔太が活躍している。
「ごくせん」で脚光を浴びた速水は、2008年の主演ドラマ「絶対彼氏~完全無欠の恋人ロボット~」が好評価を得て注目された。
俳優の故・松田優作の次男である松田翔太は、デビュー当時から研音に所属。映画「イキガミ」「LIAR GAME ~再生~」などに主演して、クールな存在感を持つ演技派俳優として知られる。
若手では、2011年にNHK「金魚倶楽部」で初主演した入江甚儀、ジュノン・スーパーボーイ出身で10年には深夜ドラマ「クローンベイビー」で主演した市川知宏、「仮面ライダーフォーゼ」で主演した福士蒼汰らが所属している。
研音に所属する俳優は、デビューしてからコンスタントに、多くの連ドラや映画に出演している人が多い。研音マネージメント部チームリーダーの内畠由貴氏は「個人の俳優として育てていきたいので、現段階ではグループは作りません。出演作品を積み重ねて、その俳優のプロフィールを作っていくというのが現在の研音のやり方です」と語る。
若手は必ず学園ドラマに
研音所属の若手俳優の共通点としては、全員が必ず学園ドラマに出演していることが挙げられる。入江は「ハンマーセッション!」(主演は速水もこみち)など、市川と福士は「美咲ナンバーワン!!」に出演した。
「カメラに映りにくい後ろのほうでも、自主的に目立つ動きをすれば、その場で監督の目に止まって、セリフが増えることもあります。学園ドラマは生もの。チャンスが落ちているので、そこで自分は何ができるかを学ぶ場所として、成長過程にある俳優にとっては、出演する価値が大きい」(内畠氏)
だが、速水、松田に続く世代の研音所属の男性俳優は、まだゴールデンタイムの主演級には育っていないのが現状だ。そこで研音は初めて、所属する若手男性俳優たちによるイベント「MEN ON STYLE」を2012年12月28~29日に計4公演開催することになった。イベントに出演するのは、入江甚儀、市川知宏、福士蒼汰、竜星涼、山本涼介、永瀬匡の計6名。
このイベントを担当する内畠氏は「若手を育成する必要性があると考えて、イベントを企画しました。直接、6人の人柄を見てもらって、人間としても応援してもらって、ファンを獲得したいということが狙いです」と語る。
イベントでは、出演する俳優たちがダンスを踊るほか、歌など、それぞれが得意なことを披露するという。最近では、所属先輩俳優である速水もこみちが、料理のレシピ本を出して大きな話題を集め、「ZIP!」の料理コーナーを担当するようになった例がある。容姿や演技力だけでなく、様々な魅力のポイントを多くの人に知ってもらう機会として、今回のイベントがどのような反響を呼ぶのか、注目したい。
(連載終わり)
(ライター 高倉文紀)
[日経エンタテインメント! 2012年11月号の記事を基に再構成]
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