社会言語学者が直伝 心の距離を縮める丁寧語の技術

妻に「話を聞いていない」となじられ、新入社員とは5分と話が続かない。社長からは理不尽に怒られる。とかく人の世は住みにくい――。「話し方」に悩む人に、達人がとっておきのテクニックを伝授する。今回は、相手との距離を縮めるテクニックについて紹介しよう。

【Q】 会話を続けていくうちに、だんだん丁寧語でなくなる場合があるのはなぜですか。

【A】 「実は、丁寧語を使わないほうが、人間関係が良くなる場合があるのです」と話すのは、一橋大学国際教育センター教授の石黒圭さん。「丁寧語を使うと丁寧な分、よそよそしくなり、相手との距離が遠ざかります。『タメ語』を使うと相手との心理的な距離が縮まり、親しさを演出できるのです」(石黒さん)。

心理的な距離と言語表現との関係は、「ポライトネス理論」で説明できるという。“ポライトネス”は日本語の“丁寧”に当たるが、友好的という意味も持つ。人間関係を良くするには、丁寧にして相手との距離を保つという方向性だけでなく、友好的にして相手との距離を縮めるという方向性があると考える。日本人は丁寧さばかりが気になり、過剰に敬語を使いがちだが、敬語をあえて外したほうがポライトになり、親しくなれることもある。

「例えば、新入生として初めてクラスメートと会ったときを思い出してください。同い年の学生同士でも、初めて会話を交わす相手とは丁寧語で話しますが、しばらくたって互いに打ち解けたら『です』『ます』を付けずに話すようにります。『です』『ます』が丁寧だからといって使い続けたら、いつまでたっても親しくなれません」(石黒さん)

この質問のケースも同様だ。「会話のなかで丁寧語が次第に減っていくのは、相手に対する親しさの表れですから、コミュニケーション上、決して悪い兆候ではありません。会話を重ねるうちに、相手が親近感を持ってくれた証しです」と石黒さんは言う。

相手のペースに自分も合わせる、「同調」を意識する

コミュニケーションの理論のなかで、もう一つ重要なものにアコモデーション(同調)理論がある。人と接するときに、相手に「同調」してお互いの距離を縮める方法だ。例えば、相手が会話中に「です」「ます」体を外してきたら、それに合わせて自分も外す。相手が「私」という人称詞を比較的くだけた「僕」に変えたら、同じように「僕」を使う。

「こうして相手のペースに合わせて距離を縮めると、好感度を損なわず、もっと親しくなれます」(石黒さん)

ただ注意したいのは、相手がくだけた言葉から尊敬語へと急に言葉遣いを変えたとき。「この場合は逆に、あなたにこれ以上近づいてほしくない、あるいは、触れてほしくない話題だと考えられます」。そんなときは空気を察して、それ以上踏み込まないのが鉄則だ。