歴史活劇「水滸伝」が放つ今どきの魅力
日経エンタテインメント!
日本で人気がある中国の歴史物語といえば、代表格は『三国志演義』だろう。ジョン・ウー監督が赤壁の戦いを迫力満点に描いて大ヒットした映画『レッドクリフ』や、スマホ向けのカード対戦ゲーム『大戦乱!!三国志バトル』のユーザー数が150万人を超える(5月現在)など、幅広い層に親しまれている。
しかし最近、世界の中華圏では『三国志』のライバルの人気が急上昇している。同じく中国の歴史物語として名高い『水滸伝』だ。中国の北宋の時代に、宋江を頭に、梁山泊(りょうざんぱく)に集まった108人の好漢たちが義賊となり、貧しい民のために、戦いを繰り広げる物語。これまで吉川英治や北方謙三などが小説化し、日本でも人気を得てきたが、2011年には中国で製作費55億円というハリウッド映画並みの予算でテレビドラマ化され、中国内のテレビ賞を総なめ。水滸伝ブームを巻き起こした。人気は日本にも飛び火し、2013年4月にCS放送がスタート、5月に劇場公開、6月5日からはDVDのリリースが始まった。
なぜ今、『水滸伝』なのか。大きな理由は2つある。まず、物語の内容が庶民的なことだ。『三国志』は、劉備、曹操、諸葛亮といった軍師たちが集団のトップに立ち、国と国とをかけて戦った戦争の物語。国を思う崇高な思想はあるが、基本的には、偉い人が"上から目線"で戦いを進めて行く。
これに対し、『水滸伝』は、武術の腕は立つが、酒好き、女好き、ケンカっぱやさ、などがあだとなり社会からつまはじきにされた人の話。社会の底辺に追いやられた弱者たちが主人公となる。彼ら108人が、弱い者をいじめ、甘い蜜を吸う上級階級の人々をこらしめるために、財宝を奪う義賊として梁山泊に大集結。虐げられている民のために働く、"下から目線"の物語だ。
時代は梁山泊を求めている
ここ数年、世界で貧富の差が拡大し、現状に満足していない多数の一般民衆は、"庶民の味方"の出現を求めている。そんな時代のムードは、勧善懲悪のアメコミヒーロー総出演映画『アベンジャーズ』の世界的なメガヒットや、現代に再び正義の味方『ウルトラマン』や『仮面ライダー』のブームが起きていることにも反映している。もし梁山泊のような、弱い立場の人を受け入れてくれる駆け込み寺ともいえる場所が現代に登場すれば、きっと世界中から困った人が訪れるに違いない。
『水滸伝』が今、人気を得ているもうひとつの理由は、アクション要素が満載なことだ。マンガ『北斗の拳』や『ドラゴンボール』で繰り広げられた、誰が一番強いかを競う迫力ある戦いを、108人の好漢たちが見せてくれる。『三国志』は軍と軍との戦争だが、『水滸伝』では、様々な武術にたけた達人たちが、1対1の肉弾戦を繰り広げるため、勝ち負けが明確で、スカッとする。これも、日々、社会のストレスと戦っている人々には、いやしになっている。
このように、武術に関する見どころ満載の、高レベルのアクションドラマを作れた背景にあるのが、ここ数年、中国経済が好調で、大作の歴史ドラマの制作に巨額の予算を投じることが可能になっていることだ。一方、以前は、ブルース・リーや、ジャッキー・チェンが活躍した香港では、日本でもヒットするような映画がなかなか生まれず、アクション映画を作れる人材が、続々と中国本土に活躍の場を求めて移動しているという。その結果、香港映画から受け継がれたアクションの英知が、今回のドラマ『水滸伝』などに、つぎ込まれているわけだ。ストーリー、アクションともに、今や世界第2位の経済大国に成長した中国の勢いを象徴するドラマといえるのが『水滸伝』だ。
(日経エンタテインメント! 白倉資大)
[日経エンタテインメント! 2013年7月号の記事を基に再構成]
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