「ぎりぎりの難しさ」が頭を刺激 シニアのための脳トレ術東北大学教授 川島隆太氏

――男性は、定年後は、地域社会になじめず、社会性がなくなる傾向がありますね。

川島 地域社会にリタイア後の男性が溶け込めないというのは良く聞く話ですが、そういった人が積極的に地域社会に溶け込むようにするにはどうすればいいかを考えるのがスマート・エイジングです。リタイアした男性の方が家に閉じこもっていたら、それは社会的資源のロスです。

役割がないと男の人はなかなか外に出ていかないので、自分たちが持っている知恵や知識を年の離れた世代に渡すという役割を考えます。いま、核家族化のなかで、高齢者の知識が孫の世代に伝わらない状況ですから、これを地域社会のなかで伝わるようにする。高齢の方に、小さな子どもたちとたくさん話していただく機会をつくればいいわけです。

鍛えれば、脳は年をとるほど良くなる

――川島さんは脳の研究者ですので、脳をどう使えばいいかを教えてください。

川島 私たちは脳の認知機能を研究しています。心の働きすべてを認知機能と呼びます。話をする機能も、記憶をしたり、学んだりする能力も認知機能です。このなかで私たちが特に注目しているのが大脳の前頭前野、おでこのすぐ後ろにある場所の機能です。この機能が、20歳から直線的に下がり続けることが分かっています。

脳のそのほかの機能、例えば知恵や知識がたまっていく場所の機能などは70代、80代がピークなのですが。

どういう能力が失われていくかというと、記憶をする力、学ぶ力、我慢をする力、他人と円滑にコミュニケーションをする力、やる気、何かをしようという自発的気持ち。こうしたものが、どんどん年とともに低下するんです。

これを何とか落とさないようにできないか。それができれば、知恵や知識は年とともにどんどんたまりますから、脳は年をとればとるほど良い脳になるはずなんです。

脳を鍛える方法が脳トレです。

――脳トレというのは具体的にどういう機能を高めていくものなのですか。

川島 私たちは、一つの心の働き、「作動記憶」(ワーキングメモリー)と呼ばれるもののみに注目しています。作動記憶というのは、ふだん私たちが使っている記憶力で、例えば人の話を聞き、言葉を理解する際に作動記憶を使っています。人の口から出ている音の連続体が耳に順番に入っていって、記憶にいったん書き留められて、それがある程度たまったところで私たちの作動記憶は私たちの過去の記憶にアクセスします。過去の記憶といま聞いた記憶を照合して、作動記憶が我々に「理解」させるのです。

易しいこと続けてもダメ、「ぎりぎりの難しさ」でトレーニングを

――過去の記憶とは、例えば言葉ですね。

川島 ずっと覚えてきた言葉と環境とを合わせるわけですね。で、この作動記憶のトレーニングを、「自分自身ができるぎりぎりの難しさで行う」というのがポイントです。

易し過ぎることを続けてもだめです。難し過ぎてもだめです、ぎりぎりの難しさでトレーニングをずっと続けると面白いことが起こります。記憶力は当然、よくなりますが、面白いのは、記憶力以外のそのほかの能力もそれにつれて上がるということです。20歳から低下する前頭前野の機能が一緒に上がってきてくれるのです。

これを分かりやすい形で世の中に提案したのが、私たちが認知症の高齢者の方々などに提供している「学習療法」です。学習療法で使うものは、読み書き計算です。

ぎりぎりの難しさをつくり出すために、認知症の高齢者の方には、本人ができるぎりぎりの難しさの教材をきちっと選んで、その教材だけをやっていただきます。