立ち会いのプロ「ドゥーラ」を雇う 米国の出産現場
米国NPの診察日記 緒方さやか
妊娠後もナースプラクティショナー(NP)として仕事をしてきたものの、大きいサイズの白衣を着ても前のボタンが留められないようになってきた。久しぶりに会った患者さんたちは、私のお腹を見て驚き、熱い祝福の言葉とキスを浴びせかけてくれる。いよいよ38週。出産予定日まで2週間を切った。
「ボーイフレンド」が出産の立ち会いをする場合も
我が家では夫が、出産の際の相方、いわゆる「バースパートナー」になる予定だ。もっとも、「アメリカでは立ち会い出産が普通なのか?」と聞かれると、「分からない」と答えるしかない。アメリカは果てしなく広く、裏付けとなるデータを探してみても見つからなかったからだ(そもそも「立ち会い出産」という言葉が存在しない)。
しかし、私の知り合いの限られたコミュニティーでの話をすれば、 最近アメリカで子供を産んだ知人は全員、夫かボーイフレンド[注] が立ち会っていた。薬による無痛分娩、産院での自然分娩に関係なく、パートナーが立ち会い、妊婦のサポートに努めるのが、私の周りでは普通のようだ。
そんな、出産に立ち会う予定の男性パートナーたちのために、医療機関だけでなく、さまざまな場所で出産準備クラス(Birthing class)が開かれている。私は、病院でなく家の近所で開かれた講座に夫とともに参加した。3時間のクラスが計4回で、最初の3回は出産の仕組み、注意点、陣痛を和らげるマッサージのつぼ、分娩中に使用されるかもしれない薬の利点や副作用について学び、最後の回は母乳育児など、赤ちゃんが産まれた後のことも教わった。非常に内容の濃いクラスであった。
パートナー以外に「ドゥーラ」を雇う女性も増えている
医療者である上、出産に関する本も読んでいた私には良い復習という位置付けだったが、本を買っただけで読んでいない夫は「へ~!」と毎回、口をあんぐりと開けて感心ばかりしていた。会社では、「母乳に抗体が入っているって知ってた? 母体ってよくできているよね」などと子供のいない同僚たちに話しかけ、嫌がられているそうだ。
複数名の立ち会いが許されている病院の場合、 パートナー以外に誰に立ち会ってもらうべきか、皆迷うようだ。2人目は実母や姉妹が多いようだが、夫と実母に加えて、「男友達に陣痛の最初から最後まで付いていてもらった」という友人までいた。また、アメリカでは近年、ドゥーラという出産立ち会いのプロを雇って出産をサポートしてもらう女性が増えている。
陣痛が始まるとドゥーラに電話し、家に来てもらう。夫と交代で、あるいは一緒に、妊婦をマッサージしたり、瞑想に参加するなどして初期の陣痛を和らげてもらうのだ。日本でも同じだろうが、高リスク出産などの例外を除いて、陣痛の間隔が相当狭まってからでないと、医療機関側は妊婦を受け入れず、家に帰されてしまう。そのため、いかに家でお産の大部分の時間を過ごせるかが鍵となる。
私は、自然分娩に定評のある病院を選び、助産師のもとで出産することが決まっていたので、ドゥーラを雇うかどうか迷った。実は、両親もニューヨークに住んでいるが、出産というかなりプライベートな瞬間に立ち会ってもらうには、逆に他人(プロ)の方が気が楽かもしれないと考えた。
結局、「できるだけ麻酔などの影響を受けずに赤ちゃんを産むことを試みてみたい」という思いを理解し支えてくれる、ドゥーラを頼むことに決めた。数人に面接し、あまりにもビジネスライクな人は断って、家の近所に住んでいる2児の母で温かい人柄の、テキサス州出身の女性を選んだ。
ドゥーラを頼んだ料金は800ドル、安いか高いか?
実は彼女は、前述の出産準備クラスを開いている先生でもある。ドゥーラ資格(ドゥーラは国家資格ではなく、NPO などが資格を認定している)を取得してからは、まだ10回しか出産に立ち会っていないという。経験よりも人柄を重視して決めたわけだが、彼女とは出産準備クラスを通して親しくなることができ、良かったと思っている。ドゥーラは経験によっては数千ドルかかることもあるが、彼女は800ドルであった。待機してもらって、たった1回お産に付き添うだけで、800ドルというのは、安いか、高いか? それは、お産にかかる時間にもよるし、やってみないと分からない。
米国での出産費用は州によって、あるいは保険のプランによって、また病院によっても大幅に異なるが、一例を挙げると、助産師にお願いして家で出産すれば3000ドル程度と聞いた。私が出産するニューヨークの病院では、「出産料」が7500ドルだった。部屋代は1日4500ドルで1泊2日だと9000ドル。それから検査代などが1000ドル程度かかるため、合計1万7500ドル程度となる計算だ。うち、勤務先で入っている保険が8割を負担してくれた。個室や無痛分娩を希望する場合、コストはさらにかかる。
出産は不安ではあるが、楽しみでもある。いよいよ間近になったその日。後日談は追って報告しよう。
婦人科・成人科ナースプラクティショナー(NP)。2006年米イェール看護大学院婦人科・成人科ナースプラクティショナー学科卒。「チーム医療維新」管理人。プライマリケアを担うナースプラクティショナーとして、現在、マンハッタンの外来クリニックで診療にあたる。米ニューヨーク在住。
[日経メディカルオンライン 2013年2月13日付記事を基に再構成]
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