乳がんの薬物治療で閉経リスク増、30代は30~40%が不妊に
乳がんの最適治療(3)
「乳がん患者さんの場合、不妊になるリスクがあるのは抗がん薬治療。薬の種類と年齢によっては治療後閉経になったり、排卵がなくなることがあります」と聖マリアンナ医科大学産婦人科学教授の鈴木直さん。
例えば、乳がんの代表的な抗がん薬治療で閉経する危険性は20代で20%、30代で30~40%、40歳以上は80~90%。「年齢が上がるほど閉経する可能性が高まるのは、加齢で卵巣機能の老化が進むから。加齢による影響もあるため、治療前に40代、あるいは治療後40代になる人は、特に自然妊娠の可能性が低い現実を知ってほしい」と鈴木さん。
日本人の閉経年齢は50歳前後ですが、閉経直前まで妊娠可能だと思いがち。しかし40代中盤に近づくと月経があっても排卵はないことが多くなり、また、妊娠したとしても流産確率が高まるのが実情です。「乳がんの薬物治療後、閉経してから後悔する患者さんは少なくありません。将来出産を希望するなら、治療前にそのことをがんの主治医に話して可能性を残せるか、そのための治療を受けるのか検討して」と鈴木さん。
薬物治療の前に、主治医に確認したいのは下の項目です。抗がん薬治療は、治療後排卵があれば、薬の毒性の影響が消える半年間以降は通常に妊娠できますし、胎児への影響はありません。
□ 不妊になる危険性のある抗がん薬治療が必要?
□ 自分のがんはホルモン療法が必要なタイプ?
□ 現在の計画では何歳で治療が終わる?
□ 自分の病状は出産してもいい状態?
□ 妊娠の可能性を残すためにできることは?
乳がんの薬物治療の1つ、ホルモン療法は治療期間が長いため、年齢的に出産の機会を逸するのが心配です。療法中は女性ホルモンを抑えるので妊娠・出産ができないからです。
一方、妊娠の可能性を残す治療には、受精させた胚や卵子、卵巣組織を凍結する方法があります(下参照)。「ただし何よりもがんの治療を最優先すべきで、妊娠のために治療開始を遅らせたり、再発予防のための治療を短くするべきではありません。病状や年齢的に出産をあきらめなければならないこともある。その時は我慢せずに、医師や看護師、相談支援センターに相談し、精神的なサポートを受けてほしい」と鈴木さんは強調します。
● 受精した胚または卵子を凍結保存
薬物療法の開始前に、ホルモン療法が必要なタイプの人は自然周期で、必要ではないタイプのがんなら誘発剤で卵巣を刺激して卵子を採取する。結婚している人は夫の精子も採取し体外受精で胚にし、出産可能な時期になったら胚を子宮に移植。未婚の人は卵子をそのまま凍結保存。胚や卵子の凍結保存ができる医療機関は、日本産科婦人科学会ウェブサイトの施設リストで検索できる(http://www.jsog.or.jp/public/shisetu_number/index.html)。
● 卵巣組織ごと凍結
手術で卵巣を片方取って凍結保存し、出産可能な時期になったら元の場所に移植する方法。薬物療法開始が迫っていてもすぐに対応でき、卵巣にある卵子をすべて温存できるのがメリット。デメリットは、がんの手術とは別に手術を受けなければならないこと。日本では研究段階の治療法だが、海外では論文報告されているケースだけで、この方法で22人の子どもが誕生している。
□ 治療を終えたら40歳を超えてしまう
□ 抗がん薬治療やホルモン療法を受ける必要がある
□ 主治医が妊娠の可能性を残す治療に理解を示している
※妊娠可能性を残す治療を行う医療機関や、こういった治療に理解を示すがん治療医のいる医療機関の情報は「日本がん・生殖医療研究会」のホームページで順次公開予定(http://www.j-sfp.org)。
聖マリアンナ医科大学産婦人科学教授。1990年慶應義塾大学医学部卒業。2011年より現職、婦人科診療部長兼務。12年に日本がん・生殖医療研究会を立ち上げ、患者のための情報発信と、がん治療医と産婦人科医のネットワーク構築を目指す。
(日経ヘルス編集部)
[日経BPムック「『乳がん』といわれたら――乳がんの最適治療2013~2014 完全版」の記事を基に再構成]
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