両親がフルタイム勤務でも保育園に入れない日本
23区で入りやすいのは新宿区、入りにくいのは世田谷区
東京23区など、待機児童が多い地域ではフルタイム世帯の争いになりがち
Q1わが家は夫婦共働きで、お互いの実家も遠く、親の支援は得られません。核家族で夫婦ともにフルタイム勤務で点数が満点でも認可保育園に入れない人が増えていると聞き不安です。夫婦どちらもフルタイムである世帯が多い場合、いったいどういう世帯が優先的に入園を許されているのでしょうか。
A1 認可保育園の入園事情は、自治体・園・年齢クラスによって異なります。すべてが同じ状態だとは言えません。でも傾向として言えるのは、東京23区など待機児童が非常に多い地域での0~2歳児クラスは、夫婦ともフルタイマーの家庭同士の競い合いになる場合が多いということです。
入園選考では、まず、親の勤務時間や保育を必要とする理由などによって基準指数が付けられ、これに家族の状況(ひとり親であるなど)や子どもの状況(認可外で保育されているなど)に応じた調整指数の加点・減点がなされて、世帯ごとの点数が算出されます。これを基本に、総合的な判断も加えて、入園の優先順位が決定されます。
「きょうだい加点」と「認可外加点」があれば、入園の可能性は上がる
きょうだいが希望園に在園している場合は加点されるので、一般的には2人目以降の入園は有利です。1人目の入園では、認証保育所などの認可外保育施設や保育ママなどに預けて働いている場合の加点がないと不利という地域もあります。2人目の入園で、「きょうだい加点」「認可外加点」の両方があれば、入園の可能性が上がると言えます。
杉並区のA家の場合を仮定して計算してみましょう。
(2) 上の子が第一希望園に在園中であるため、調整指数でプラス1点
(3) 申請児を認証保育所に6カ月以上預けているので、調整指数でプラス2点
(4) 保育ができない理由のない65歳未満の祖母が同居しているため、調整指数でマイナス2点
結果、このA家の世帯としての指数は、41点ということになります。
(3)については、認証保育所に預けている期間が2カ月以上であれば1点、6カ月以上であれば2点、1年以上であれば3点、1年半以上であれば4点になります。年齢制限のある認可保育園を卒園することによる転園希望の場合は、4点が加点されます。
(4)については、健康上の理由等で祖父母が保育できないことが明確にできれば減点されません。
このような基準指数・調整指数の内容や点数は、自治体によって少しずつ異なっていますので、自分が申請する自治体の基準を知っておく必要があります。今回の事例で扱った杉並区の場合は、こちらで詳細を確認することができます。ただし、これは自治体によっても、年度によっても異なってきますので注意が必要です。
なお、競争率の高い自治体では、指数が同点の世帯が並びがちなので、その場合の優先順位も決められています。一般的には、基準指数が高いほうを優先、認可外などに預けている期間が長いほうが有利、所得が低い世帯が有利などという基準があります。
23区で保育園に入りやすいのは新宿区、入りにくいのは世田谷区
Q2 今、保育園が激戦だと言われている地区はどの辺りなのでしょうか。出産を控えた夫婦が引っ越しを検討する場合、保育園の入りやすさという点から見たら、どの地区への転居がオススメですか?
A2 以前、「待機児童がゼロの子育てしやすい街」とうたっていた港区が、今は激戦区になっているように、待機児童の状況は時とともに推移していきます。確かなことは、大規模な開発によりマンションの新築が相次いでいる地域は入園状況が悪化するということです。
平成26年4月入園について、東京23区の入園申請数と募集枠の割合を調べた東京新聞の記事(2月28日朝刊「認可保育所不足さらに悪化 2万1000人 入れず」)によれば、世田谷区、杉並区、目黒区では入れない子どもが申請数の5割以上、台東区、中野区、港区、豊島区、足立区、大田区、江東区では4割以上になると見込まれています。
「保育園を考える親の会」が毎年、首都圏の主要市と政令指定都市について独自に調べている調査では、23区で最も入園率が高い(認可保育園に入りやすい)のは新宿区(80.8%)、次いで葛飾区(79.0%)でした。首都圏の都外の回答自治体で入園率が80%を超えているのは、我孫子市、八千代市、春日部市、川越市、富士見市、ふじみ野市、横浜市、鎌倉市、平塚市などでした(平成24年4月入園の入園決定数÷入園申請数、『100都市保育力充実度チェック』掲載)。
厚生労働省に各市区が報告している待機児童数は、必ずしも実態を表してはいないことに注意しなくてはなりません。
また、自治体の中でも、地域によって大きく違うことにも気を付けなくてはなりません。駅に近い保育園は競争率が高く、不便な立地だと入りやすかったりします。後者のほうが意外に自然環境などの点で子どもにとってはよい場合もあるので、少し遠回りになっても通える園は視野に入れたほうがよいでしょう。
自治体の窓口で、前年の入園状況の実績を聞き、住宅開発の状況などもチェックすれば、その地域の入園の難易度はある程度分かるはずです。
「入園のライバル」には希望園は打ち明けないほうがいい場合もある
Q3 保活中のママ・パパは孤独を感じやすいものです。近所のママ・パパ友から教えてもらう情報はありがたいですが、家族の状況や勤務状況などは個別の話。実際はすべてを打ち明けて相談するのが難しいこともあります。場合によってはそのママ・パパ友が保育園の枠争いのライバルになる可能性もある。そんなとき、ママ&パパは、何を心のよりどころとし、どうやって信頼できる情報を得たり、気持ちを癒したりすればいいのでしょう。入園内定通知を手にするまで、夫婦ともども何も手に付きません。
A3 「保活」のつらさを分かり合えるのは、やっぱり保活仲間です。
公園や「ひろば」(子育て支援の交流の場)、その他、子育て中の親が集まる場所で、保活をしている仲間を見つけて、情報交換や苦労話をするのが、お互いの支えになると思います。
ただ、確かに地域の保活仲間は、「入園のライバル」になりがちであるというのも事実。そうなりそうな相手とは「どこの園を希望している」などの話を避けているという話もよく聞きます。「暗黙の了解」でそんな距離感を保つというのも、関係をぎくしゃくさせないよい方法です。もちろん、細かいことは気にしないという人同士であれば、包み隠さず話し合って、お互いの結果にも、共に喜び共に悲しめる関係をつくるのもよいと思います。
私が代表を務める「保育園を考える親の会」は、色々な地域から働く親が集まっていて、比較的気楽な情報交換が行われています。すでに入園している人、申請中の人、まだこれから申請する人など、色々な段階の人がいるので、違った視点からの意見が聞けるのも強みです。ネット上には、同様のネットワークが色々あると思います。職場にもそんな話ができる相手がいるかもしれません。心の支えを得るのは大切なこと。ちょっと時間をつくって、探してみてはどうでしょう?
入園申請の結果をいくら心配しても、それでよい結果が得られるわけではありません。心配するだけ損なので、申請が終わったら結果が出るまで忘れてしまいましょう。
どうしても頭から離れないという人は、紙に、認可に落ちた場合にどうするのか(例えば、「予約中の認証Aへ連絡する。だめなら認証Bに連絡する」など)を整理して書き出してみてください。そのためには、見学もして認証等の認可外の志望順位などをしっかり固めておくことが必要です。落ちたときにすべきことがはっきりしていれば、不安も軽くなるはずです。
早生まれなら「無理に0歳児クラスに入れない」という選択肢もある
Q4 おなかの子どもが早生まれになる予定です。臨月になっても保育園が決まらず、保活のことが気になって眠れないほどです。こういう場合は保活を一旦ストップしてもいいのでしょうか。
A4 保育園は最も早くても産休明けの生後57日、もしくは43日からの受け入れになります(施設によって異なります)。例えば、2月生まれの子どもを4月入園させたい場合、妊娠中の申し込みを受け付けている自治体もありますが、生後日数が足りる予定日になっていなくてはならず、また、そもそも産休明け保育をしていない保育園も多いので、間口はとても狭いと言えます。翌年4月では1歳児クラスへの入園申請になり、競争率が高くなりますから、眠れなくなる気持ちも分かります。
ご心配の通り、早生まれの保活は色々と不利な部分があります。でも、あまり不安を募らせるのは胎教によくありません。この際、0歳児での認可入園は当てにせず、1年かけてチャンスを狙う気持ちに切り替えてはどうでしょう。もちろん「あわよくば」くらいの希望をもって申請を出しておくのはよいと思います。
早生まれの場合、みんな同じような目に遭いますが、その後の希望がないわけではありません。
産休明けの4月入園がだめだったら育休を取り、むしろ子どもと一緒にいられる時間が増えたことを喜びましょう。認可への申請は継続しますが(通常は6カ月有効、それを超えると再度申請が必要)、年度途中入園はチャンスが少ないことを念頭において、認証保育所などの認可外への入園も検討します。認可・認可外とも4~5月に動きがあったという報告も「保育園を考える親の会」に届いています。焦らず、待ちましょう。認可外などに入園できれば、認可の入園申請で調整指数の加点が得られます。また、認可については月齢が上がれば、受け入れ園も増えます。
この人に聞きました
出版社在職中に2回の育児休暇を取り2人の子どもを保育園に預けて働く。1993年より、「保育園を考える親の会」代表。保育、仕事と子育ての両立の分野の執筆・講演活動を行うほか、国や自治体の保育・子ども施策に関わる委員会等の委員も務めている。著書に『共働き子育て入門 』(集英社新書)、『保育園のちから 』(PHP研究所)、『はじめての保育園 』(保育園を考える親の会編、主婦と生活社)、『はじめての小学校&学童保育』(保育園を考える親の会編、学陽書房)ほか多数。
[日経DUAL2014年3月26日掲載記事を基に再構成]
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