――シニアの地域デビューと聞いてまず頭に浮かぶのは、定年退職後、家でごろごろしている男性に、奥さんが町内会の仕事やゴミ出しなどを頼むという光景なのですが。
松本 「地域」というと自分の住んでいる家の周りをイメージされる人が多いですが、社会全体のなかで「地域」を考えてほしいのです。社会には企業が活動する場もありますが、市民が生活を営む場もあり、それが地域だと思います。両方がうまくやっていかないといけないわけです。そして、地域社会のなかで、リタイアした人がどのような役割を果たしていくかというのが、今後重要になってくると思います。
定年退職者が集まり、空き工場でベーカリー開業
――自分はあの地域が好きだから、どうにかしたい、ということでもいいわけですね。
松本 群馬県桐生市で定年退職した人たちが集まって、使われていないノコギリ屋根の繊維工場を利用して素敵なベーカリーを開きました。それが市民に評判となり、ついには街の観光名所になってしまいました。行政で発想できなかったことを、個人の「何とかしたい」という思いが実現させたのです。彼らは桐生の産業遺産を生かした観光ルートを作り、観光案内までやっています。
――教育、介護、医療などでは、財政が悪化して今後は行政に頼ってばかりいられなくなり、地域で担う部分が多くなると思います。地域デビューをして行う活動は、社会貢献活動と言い換えてもいいのでしょうか。
松本 社会貢献しつつ、ちょっとした経済活動もでき、ある程度の収入があるというような活動をリタイアした人ができるような社会がつくれたらいいなと思っています。
社会奉仕と収入の喜び、どちらも大事
――社会貢献というとボランティアというイメージがありますが、そこに経済的な側面も加われば、ビジネスマンを長くやってきた男性にとってはやりがいも出てきますね。
松本 喜びも倍増すると思います。社会に奉仕する喜びと、お金も入ってくる喜び、私はどちらも大事だと思っています。
――しかし、会社を定年退職して地域デビューするケースは、そんなに多くないですね。
松本 あまり、うまくいっていませんね。一生懸命仕事をされていた人ほど、地域を知らないので、「何をするのだ」と思ってしまいます。地域デビューというと、無料奉仕で、福祉関係の活動をしなければならないと思ってしまうようです。実際は、もっと自分の特技や趣味を生かせる可能性が広がっているのですが。