寒さの強い味方、ダイエットにも役立つ褐色脂肪細胞の秘密
働きもののカラダの仕組み 北村昌陽
いよいよ冬本番。もう暖房器具を使い始めている人も多いと思うけれど、外に出ればやっぱり寒いし、襟元を吹き抜ける冷たい風にキュッと身を縮めることもあるだろう。
そんなとき、体の中で働き出す自前の"ヒーター"があるという。寒さを感じると熱を作る、この季節の強い味方は、「褐色脂肪細胞」という名前だ。
え、脂肪細胞が味方なの? と思ったかもしれない。だって体脂肪は普通、少ない方がうれしいものだから。でも褐色脂肪細胞は、体脂肪をため込む通常の脂肪細胞(こちらは白色脂肪細胞と呼ばれる)とは全く別物なのだ。
「むしろ、熱を作るために脂肪を燃やしてくれます。ダイエットにも役立つ存在ですよ」
褐色脂肪細胞の研究で世界をリードする、天使大学教授の斉藤昌之さんはこう話す。へ~そんな細胞なら、多い方がうれしいのかも。どんなしくみになっているのか、聞いてみよう。
■寒さの中では熱を作るのが優先される
私たちの体は約60兆個の細胞でできている。細胞が生きていくにはエネルギーが必要で、そのために私たちは食事を食べるわけだけれど、細胞は、食べ物の成分(糖分や脂肪など)を直接エネルギー源として利用するわけではない。食べ物の分子をいったんバラバラに分解し、ATP(アデノシン3リン酸)という別の分子に再構築する。この形になってはじめて、エネルギー源として利用できるのだ。
~寒さを感じると、褐色脂肪細胞が脂肪を燃やして熱を作る~
ATP生産を担うのが「ミトコンドリア」。これは細胞の中にある極小の袋で、平均的な細胞には数百個ものミトコンドリアがあるという。貴重なエネルギーを利用可能な形に変換するこの機能は、細胞が生きていくうえで最も重要な働きだ。
ところが、褐色脂肪細胞のミトコンドリアは、もう一つ別の仕事を兼務している。それが「熱を作る」こと。体が寒さを感じると、褐色脂肪細胞のミトコンドリアは、普段ならATPの原料に使う食べ物由来の成分(主に脂肪)を惜しげもなく燃やして、熱を発生させる。寒いときは、ATPを作るより、体を温める方が大事なのだ。
このスイッチを切り替えるのが交感神経。交感神経が寒さに反応して褐色脂肪細胞に働きかけると、UCPというミトコンドリア内部のたんぱく分子が稼働して、ミトコンドリアを"ヒーター仕様"へ変化させる。
「実験的に遺伝子を操作して、UCP分子を持たないマウスを作ると、体温を維持できずに死んでしまいます。それぐらい大事な働きなのです」
ほ~。通常、体内の余分な体脂肪を減らすには、運動で消費するわけだけれど、褐色脂肪細胞は運動しなくても脂肪を燃やすわけか。確かにダイエットの助けになりそうだ。
■褐色脂肪細胞は年を取ると減っていく
実はごく最近まで、人体における褐色脂肪細胞の存在は、きちんと確認されていなかったという。「赤ちゃんのときはあるけれど、大人になったら消えると考えられていました」。
その医学常識を覆したのが斉藤さんの研究。PETという特殊な検査装置を使って、大人でも肩や鎖骨の下あたりに存在していることを発見した。ただ、活動の程度は個人差が大きく、全く検出されない人もいる。
「加齢と共に減るようです。20代ぐらいなら大半の人が持っていますが、40代より上では見つかる方が少ない」。そして褐色脂肪細胞を持っている人は、実際に体脂肪が少ない傾向がある。やはりこの細胞が活動すると、太りにくいのだ。
となれば、どうすればこの細胞の活動を保てるか知りたくなる。斉藤さんによると、冬は適度に体を寒さにさらして、褐色脂肪細胞をきちんと働かせるのがいいという。「暖房の効いた室内にこもってしまうのは逆効果でしょう」。
もうひとつのおすすめは、食べ物をじっくり味わうこと。「味覚の刺激も、褐色脂肪細胞を働かせます」。なるほど。今日からやってみましょう。
健康・医療系のフリーランスライター。医療専門誌や健康情報誌の編集部に計17年在籍したのち独立。専門知識を生かした取材・執筆活動を続けている。著書『カラダの声をきく健康学』(岩波書店)。
[日経ヘルス2010年12月号の記事を基に再構成]
健康や暮らしに役立つノウハウなどをまとめています。
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