いきなりだが、質問をひとつ。「大手町」と「渋谷」、どのように読む? 「おおてまち」と「しぶや」なら関東人、「おおてちょう」と「しぶたに」なら関西人……かもしれない。同じ漢字を使っていても、地域によって読み方が違うことがある。その理由を探っていくと、言葉を巡る日本の歴史が見えてくる。
東日本は「まち」、西日本は「ちょう」
東京都千代田区大手町。「東京ふしぎ探検隊」の所在地は「おおてまち」と読む。だが、関西では違う読み方の地名がある。だんじりで有名な岸和田市大手町は「おおてちょう」。NHKで現在放映中の朝の連続テレビ小説「カーネーション」の舞台でもある。大阪では高槻市や茨木市にも「おおてちょう」がある。京都市伏見区にある西大手町、東大手町も「おおてちょう」だ。
では「渋谷」はどうか? 東京では「しぶや」だが、大阪府池田市では「しぶたに」と読む。プロ野球、横浜ベイスターズ所属の中村紀洋選手は渋谷(しぶたに)高校時代、甲子園に出場した。それにしても「町」と「谷」はなぜ、東西で読み方が異なるのか?
まずは「町」について調べてみた。第一法規発行の『全国市町村要覧 平成23年版』によると、2011年10月1日時点で、自治体名としての町の数は750。要覧には読み方も書いてあり、すべて数えれば全体像がつかめるはずだ。とはいえ市町村名一覧は25ページにもわたる。ちょっとひるんでいたら、既に数えている人を見つけた。『くらべる地図帳』(東京書籍)などの著書がある地理学者の浅井建爾さんだ。
浅井さんによると、750の町のうち、約6割が「ちょう」と読み、約4割が「まち」と読むらしい。都道府県別の内訳を見ると、はっきりとした傾向が出た。東日本は「まち」、西日本は「ちょう」と読む場合が多いのだ。例外は北海道と福岡、熊本。「まち」派が多い東日本にあって、北海道では「ちょう」が多く、逆に「ちょう」派が大多数の西日本で福岡と熊本は「まち」派が圧倒しているという。
もちろん、「おおてまち」は自治体名ではなく、この法則は必ずしも当てはまらない。広島市や松山市の「大手町」は「おおてまち」と読む。とはいえ、自治体名に限ってみてみると、「まち」と「ちょう」とで傾向が鮮明なのだ。
こうした傾向はなぜ起こるのか。総務省に尋ねたところ、「はっきりとしたことはわからない」。自治体名の読み方は地方自治法で「従来の名前による」と定められており、各市町村に命名権があるからだ。浅井さんも「文化圏の違い、としか分かりません。東西のライバル心みたいなものがあったのかもしれませんね」と語る。
そこで方言や漢字に詳しい早稲田大学の笹原宏之教授に聞いてみた。