バイオリンに産卵…お母さんヤモリも情操教育?
コスタリカ昆虫中心生活
前回に引き続き、雨期を迎えたわが家の話。屋内の湿度が増し、同居している小さな蛾(が)やシロアリたちの活動が活発になってきた。蛾だけでも5種類は住んでいて、少しずつ生態もわかってきた。夕方から晩にかけて、さまざまな舞いを元気よく見せて、楽しませてくれる。
で、そこに現れるのが、食欲満点のお母さんヤモリ。体長は15センチほどで、卵が2つ大きく膨らんだお腹の中に透けて見える。最近、戸棚を開けたり、箱の中を整理したりすると、ヤモリの卵によく出会う。必ず2個いっしょに産んである。
先日バイオリンを持ちあげると中からコロコロコロと音がしたので、「わちゃ~、中の魂柱(こんちゅう。バイオリン内部にある、表板と裏板の間で支えている棒)が外れてる~」と思いきや、ちゃんと魂柱は付いている。
はて……なにがコロコロしているのか?
f字孔からのぞくと、なんか白いものが? もしかして……「ヤモリの卵やん! わちゃ~。昨日はなかったのに……」
しばらく音を鳴らすのはお預けになった。
「無事にふ化して、バイオリンから旅立っていっておくれ~」
目立ちすぎ、輝かしいコガネムシ
続いてご紹介するのは中米特有の昆虫、プラチナコガネ。全部で100種ほどが確認されていて、コスタリカには22種生息している。
「これだけ目立つ色をしていて大丈夫なんでしょうか」とよく質問される。
大丈夫だったからこれまで生き延びているわけだが、実際のところ、これだけ目立っているにもかかわらず、その生態はまだほとんど明らかになっていない。夜行性だということはわかっているが、それならこの輝かしいメタリック色の役割は何なのだろう。
プラチナコガネの色は、色素の色ではなく、構造色という、光の干渉によって再現される色である。表皮の構造の極微細な違いで、色が変わる。上の写真のプラチナコガネは、なんとも言えない赤っぽい金色。同じ種でも、普通の金色や銀色のものもいる(下写真)。昼間は樹上の葉の裏なんかで休んでいて、周りの景色を自分の体に映し込み、森の中に溶け込んでいるのであろう。
しかし、自然の恩恵を踏みにじる違法な乱獲が横行している今の時代に、これだけ目立つ色をしていることは、やっぱり大丈夫ではない。
昆虫学者。1972年、大阪府生まれ。小さいころから、生き物を相手にわが道を行く。中学卒業後、単身、米国の高校に入学。大学では小さい頃の生物に対する思いが高まり、生物学を専攻する。1998年からコスタリカ大学で蝶や蛾の生態を主に研究。昆虫を見つける目のよさに定評があり、東南アジアやオーストラリア、中南米での調査も依頼される。現在は、コスタリカ大学の調査員として、米国政府のハワイ州の外来侵入植物対策プロジェクトに参画する。第5回「モンベル・チャレンジ・アワード」受賞。
本人のホームページはhttp://www.kenjinishida.net/jp/indexjp.html
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2011年7月19日、同8月2日付の記事を基に再構成]
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