作家の織田作之助が大阪の下町を描いた「夫婦善哉」。冒頭に登場する天ぷら屋では「路地の入り口で(中略)紅生姜(べにしょうが)、鯣(するめ)、鰯(いわし)など」を揚げている。
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向かったのは小説の舞台になった大阪市中央区の黒門市場。そこで40年以上、紅ショウガ天を揚げ続けている天ぷら専門店「日進堂」を訪ねた。平たくスライスされた紅ショウガ一枚一枚に丁寧に衣をつけて揚げる。一口かじると、旬を迎えたショウガの歯ごたえがシャキシャキとしている。
紅ショウガ天のそばには中国語や韓国語で「大阪名産」との表示が。女将の赤松永依子さんは「昔から大阪の庶民の味です」と胸を張る。紅ショウガ天を求めにきた自営業の当間江里子さんは「おやつ感覚で食べるよね。ソースをかけて」とにっこり。
確かに紅ショウガとソースの相性はいい。お好み焼きやたこ焼きと同じ。「ソース文化と紅ショウガ天は、大阪の粉もん料理と同様、一体で捉えるべきでしょう」と語るのは関西の食文化に詳しい老舗菓子メーカー、豊下製菓(大阪市)の豊下正良社長だ。
豊下さんによると、ソースをかけるのは明治期の庶民にとってハイカラな食べ方だった。関西では、タマネギやショウガなど匂いのきつい食べ物をあまり口にしない習慣があったが、ソースのおかげで食べやすい機運が広がったという。
うなずきながら黒門市場を歩いていると菓子店で面白い商品を見つけた。カルビーが出しているスナック菓子「かっぱえびせん」紅ショウガ天味だ。カルビー広報部に聞くと、昨年2月から滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山の関西6府県で販売中。
全国6地域で地域限定商品を出しているが、中でも紅ショウガ天味は売れ行き好調という。広報部の笹山さつきさんは「今年4月、味を刷新した時も、紅ショウガ天味は満場一致で残りました」と教えてくれた。
やはり、関西で紅ショウガ天は浸透している。以前、NIKKEI NETが調べた「紅ショウガの天ぷらを食べるか」というアンケートで「はい」と答えた人が圧倒的に多かったのは大阪、奈良、和歌山だった。