集め始めて40年
94年にルーマニアで出た切手がある。描かれているのはN・C・パウレスコという医学者だ。彼は実はバンティングらに先立ってインスリンを発見していたようだが、臨床研究の立ち遅れで第一人者とは認められなかった。この切手はパウレスコの業績を正しく評価せよというキャンペーンの一環で出たものだ。
私は糖尿病に関連する切手を71年から集め始め、約100種類ほぼすべてを入手した。国際学会に出かけたときなど、電話帳を見て現地の切手商を探し、会議の合間に足を運んだものである。
こうした切手は必ずしも高額ではないのだが、見つからないものはなかなか見つからない。バンティングとベストが描かれた71年発行のクウェートの切手は15年近く探し続け、ソウルの百貨店の切手売り場で見つけた。
文字の読めない国の切手の場合、それが糖尿病をテーマにしているのかを調べる手間もある。切手収集家は発行されているものはすべてを網羅したいと考えるので、そこで妥協はできないのだ。
自らもデザイン提案
94年、神戸で国際糖尿病会議が開かれたときの記念切手発行には、実は私たちが関係している。郵政省に申請し、デザインを提案した。それは記録が残っているわが国最古の糖尿病患者である藤原道長とインスリン結晶を組み合わせたものだ。カラフルでしゃれた図柄で気に入っている。
収集品を紹介したエッセーを、「切手にみる糖尿病の歴史」(ライフサイエンス出版)という本にまとめた。糖尿病について理解を深めてもらう一助になればと思う。
日本の糖尿病患者は2030年まで増え続けると予測されている。iPS細胞の研究などで治療法もまだ進歩する見通しだが、一人ひとりが病気のことをよく勉強することが大切だ。糖尿病は難敵だが、敵をよく知ることで健やかな人生を送っていただきたい。(ほった・にぎし=中部ろうさい病院名誉院長)