出世ナビ

リーダーの本棚

古典を通じて経営哲学磨く  レンゴー社長 大坪清氏

2012/3/25

 学生時代に出合った1冊の古典から多くのことを学んだ。いまも経営哲学の根幹を成しているという。

レンゴー 大坪清社長

神戸大学経済学部に入学しましたが、朝から晩までバレーボールの練習に明け暮れていました。ゼミの指導教授から「運動部やからどうせ勉強せんやろ。せめてこれだけでも読んでおけ」と渡されたのがアダム・スミスの『国富論』でした。当時はこれを原書で読破しました。学生時代の唯一の自慢です。

有名な「見えざる手」(invisible hand)は第4編2章に出てきます。自分の利益を求めていけば、意図しないうちに社会全体の幸福につながる、ということを示す言葉です。しかし、もっと深い意味もあるのではないか、と私は考えています。

昨年の東日本大震災以降、「絆」という言葉が見直されています。これに当たる英語がなかなか見あたらない。「invisible hand」はまさに絆を示す言葉ではないでしょうか。人間は目に見えない深いところでつながっている。スミスはこうした人々が共感し合う善意に基づいた市場経済を考えたのです。『国富論』の前に出した『道徳感情論』でも道徳や倫理、シンパシーなどの重要性を説いています。

製紙業界の集まりでも私は昔から「見えざる手」という言葉を使い、フェアな競争を訴えてきました。「神の見えざる手」をもじり「紙の見えざる手」と言ったこともあります。過剰な値下げ競争、シェア争いは結局、全ての企業を苦しめる。絆を大事にし、業界として利益を出すことが重要だと思います。

 震災でレンゴーの仙台工場は壊滅的な被害を受けたが、いち早く内陸部での再建を決断。この春新工場が稼働する。雇用確保を第一に考えたという。

土地、資本、労働のうち労働が一番重要だと考えています。これもスミスの労働価値説などから学んだことです。そんな私が、リストラを断行してきたジャック・ウェルチ氏のファンだというと、意外に思われるかもしれません。彼とは10年来のつきあいですが、社員を非常に大事に考える経営者です。著書を読んでもそれが分かります。

『ウィニング 勝利の経営』はざっくばらんな表現で書いた経営戦略の本です。「リーダーがすること」で彼は「人から嫌われるような決断を下す勇気を持て」と書いています。社員が嫌がることも気概を持って決断すべきだと。一方、最後の項目では「派手にお祝いをする」を挙げ、成果を上げた社員を祝うことの重要性を説いています。

ウェルチ氏は冷蔵庫事業など切るべきものを切りましたが、社員の次の働き口は確保していました。人を大事にする視点がないと「お祝いする」という発想も出てこないはずです。

 住友商事からレンゴー社長に就いて11年目。本で仕入れたネタを会議で紹介したり、意見を聞いたりする。

一見関係ないようなことも人生や経営のヒントになる。それが読書の楽しみです。多くの示唆をくれるのが井沢元彦氏の『逆説の日本史』です。全巻そろえました。彼は人類の歴史を「器」で表現し、石器や土器などから始まって、「紙器」の時代に入ったといいます。紙器の代表製品の一つである段ボールメーカーとして心強く感じました。

夏目漱石の弟子の内田百●(もんがまえに月)も好きです。『第一阿房列車』『百鬼園随筆』など軽妙な文体ながら核心をつく内容で、経営者が肝に銘じるべき警句も多くある。言葉遣いも非常に巧みです。

夜寝る前には瀬戸内寂聴さんが般若心経について書いた本を読んだり、寂聴さんが唱えた般若心経をCDで聴いたりします。雑念を捨て、無の境地とは何かを考える。会社での出来事を忘れ、こころ静まる瞬間です。(聞き手は編集委員 橋本隆祐)

【私の読書遍歴】

《座右の書》
国富論(上・下)』(アダム・スミス著、山岡洋一訳、日本経済新聞出版社・2007年。原題はAn Inquiry into The Nature and Causes of The Wealth of Nations)。「経済学の父」として知られるイギリスの経済・哲学者、スミスの主著。1776年に初版が出版された。
《その他の愛読書など》
(1)ウィニング 勝利の経営』(ジャック・ウェルチほか著、斎藤聖美訳、日本経済新聞社・05年)。ゼネラル・エレクトリック社の元最高経営責任者が書いた経営書。日米でベストセラーに。
(2)逆説の日本史』各巻(井沢元彦著、小学館・1993年~)
(3)第一阿房列車』(内田百●著、新潮文庫・03年復刊)
(4)寂聴 般若心経』(瀬戸内寂聴著、中央公論社・88年)のち中公文庫。

出世ナビ 新着記事

ALL CHANNEL